2016年までの為替・金利・株「メーク・ドラマ」【後編】
「よく考えてみれば、おかしな話だ。なぜインフレ率があれほど低下し、“ヘリコプター・ベン”ならデフレへの転落を警戒しそうな中でも、逆にQE、債券購入終了を急いだか。要するに、バーナンキは知っていたんだ。昨年のインフレ率の低下は特殊要因によるもので、2014年に入ったらインフレ懸念が急浮上しかねないということを」。
そんなことを皆が話し始め、米金利の大幅上昇が2014年に入って本格再開するといった「未来シナリオ」を前回(https://nikkan-spa.jp/485218)書きました。今回はその「後編」です。
【日欧の究極の通貨安政策】
仮にそうなると、問題は日欧でしょう。米金利急騰に連動する形での日欧での金利上昇は、それぞれ「脱デフレ」を目指し「異次元の緩和」を行っている日本、そして債務問題の解決に取り組み財政再建中の欧州ではまったく追認できないでしょう。
米金利上昇が急加速し、日欧でもそれに連動した金利上昇が深刻化しそうになると、金利上昇阻止策が注目されるところとなるでしょう。日本がかつて似たようなことを経験したのは1999年2月でした。日本の長期金利が2.5%まで急上昇に向かう中で、大量に債券を保有した金融機関の債券含み損拡大も警戒され、金利上昇ストップのために行ったのが史上初のゼロ金利政策でした。
同じように、債券相場の急落で、それを大量に保有している金融機関の損失拡大が懸念されたのは2012年の欧州債務危機でもありました。それに歯止めをかけたのがLTRO、そして実質的なECBによる債券無制限購入策、OMTでした。
黒田日銀は、そういった先例も踏まえて、日本の長期金利急騰に歯止めをかけるべく、政策金利のマイナス金利化、そして日銀版LTRO、無制限債券介入策などを検討するかもしれません。それは為替相場からすると、究極の円安政策と受け止められ、ドル高・円安は一気に120円を超えていよいよ止まらない様相になる可能性があるかもしれません。
それは、基本的には欧州でも同じでした。米金利上昇が加速すればするほど、日欧はそれと連動した金利上昇阻止策の必要が高まり、その金利上昇阻止策が通貨安のインプリケーションをもたらすようなら、それはいよいよ米ドル一極集中を加速させる可能性があるのかもしれません。
【2016年130円】
なぜ米国だけ金利上昇を許容できるのか。それはシェール革命など新エネルギーが現実化し、さらにインフレ懸念も台頭する結果の当然の帰結だろう――。そんな論調が誰の口からも当たり前のように語られるようになるなら、誰もが疑うことなく群れてドル買いに殺到するといった事態になるのかもしれません。
止まらないドル高は、2016年には130円となり、それでもまだまだ通過点に過ぎないといった見方が広がっているのかもしれません。でもそんなドル高に中国人民元を実質的に連動したままではいられなくなる。
人民元の米ドル・ペッグ制停止、実質的な人民元切り下げ。それは中国を筆頭としたBRICs時代の終了を象徴することになるのかもしれません。そういった中では、新興国、資源国通貨の下落が続いていたとしても、誰も不思議とは思わず、むしろなぜかつてあんなに新興国、資源国通貨が人気を集めていたのか、その時はもう皆忘れているかもしれません。
さて、今回考えてきたことのすべてがその通りになることはもちろんないでしょうが、それでも半分ぐらいはこんな感じなのかもしれません。そうであるなら僕らは、これからそんな時代を過ごすことになるのです。(了)
【吉田 恒氏】
1985年、立教大学文学部卒業。大手投資情報会社で編集長、代表取締役社長などを経て、2011年7月から、米国を本拠とするグローバル投資のリサーチャーズ・チーム、「マーケットエディターズ」の日本代表に就任。国際金融アナリストとして、執筆・講演などを精力的に行っている。また「M2JFXアカデミア」の学長も務めている。
2000年ITバブル崩壊、2002年の円急落、2007年円安バブル崩壊など大相場予測をことごとく的中させ話題に。「わかりやすい、役立つ」として、高い顧客支持を有する。
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