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佐村河内氏「詐病」疑惑、専門医はどう見ている?

「私の認識では、初めて彼と会ったときから、今まで特に耳が聞こえないということを感じたことは1度もありません」  2月6日、「現代のベートーヴェン」こと、佐村河内守氏(50)の“ゴーストライター”を務めていたと告白した桐朋学園大非常勤講師・新垣隆氏(43)の衝撃会見が波紋を広げている。
佐村河内守,CHOPIN

昨秋、韓国人ピアニストのソン・ヨルムさんと雑誌の表紙を飾った佐村河内守氏。写真/『CHOPIN』2013年11月号

 クラシック界では異例とも言える約18万枚を売り上げた「交響曲第1番 <HIROSHIMA>」をはじめ、佐村河内氏名義の作品を、新垣氏が18年間にわたって20曲以上提供していたとされるが、何より驚かされたのは、そもそも佐村河内氏が自称している「全ろう」の障害が、「詐病」なのではないかという疑惑が浮上した点だ。新垣氏の会見を受け、同日夜、佐村河内氏の代理人を務める折本和司弁護士は「耳が聞こえないのは本当だろうと思っています」と反論。加えて、佐村河内氏が聴覚障害2級の障害者手帳を持っていることについても、「確認しています。彼の場合は唇の動きがひじょうにゆっくりしているので、彼との間での会話は、手話なんか使わなくても成り立つ」と寝耳見に水の「詐病」疑惑を全面否定している。  事の真偽は、疑惑の当事者である佐村河内氏の言葉を待つ以外にないのだが……。耳鼻咽喉科を専門にしている開業医の一人はこのように話す。 「聴覚障害2級とは、『両耳の聴力レベルがそれぞれ100dB(デシベル)以上のもの』のことを指し、ガードの真下で電車が走り抜ける音がようやく感じられる程度の等級に相当しますが、正直、全ろうを装って医師を欺くのは相当難しいと思いますよ。聴力検査には、純音聴力検査からはじまり、語音聴力検査、耳音響放射検査、聴性脳幹反応検査(ABR)などいろいろな方法があり、通常、初めて耳鼻咽喉科で受診する場合は、まずは純音聴力検査を受けます。これは、左右それぞれの耳にヘッドホンをあて125~8000Hz(ヘルツ)の音を段階的に流し、音が聞こえたら手元にあるボタンを押すという単純な検査方法で、もし被検者が『まったく聞こえません』と自己申告すれば、聞こえないということになってしまいます。ただ、全ろうの疑いがあるということなら、普通の医療機関であれば聴性脳幹反応検査(ABR)など、自己申告に拠らないで聴力の不具合を見極められる検査をすることになるはず」  ABRとは、蝸牛神経やそれより中枢側(脳幹)の聴覚伝導路の機能を調べる検査で、音を聞かせることで脳波がどのような反応を示すかを見るもの。被検者が仮に“ウソ”を申告しようとも、容易に隠しおおせるものではないという。件の専門医が続ける。 「それこそ戦争中に、兵役を逃れるため検査直前に大量の醤油を飲んで血圧を上昇させるのと同じように、聴覚障害があるように見せかけて豆や鳥の羽根を耳の奥に入れて検査に臨む人もいたと言いますが(笑)、ABRや内耳感覚細胞の反応を見る耳音響放射検査(DPOAE)のある今は、そういった猿芝居はほぼ通らないと言っていい。ただ、交通事故などの損害賠償や保険金詐欺、有利な労災認定などを目的として怪我や病気を装う人は今も変わらずおり、一方で、これに“手を貸す”医師がいるのも事実です……。精神科や眼科では比較的『詐病』が多いと言われており、耳鼻咽喉科も例外ではない。あくまでも仮定の話ですが、今回の佐村河内氏のケースでも、ABRで多少の反応が出たとしても、頑なに『聞こえません』と言い続ければ、医師の側が勝手に慮って患者の意向に沿った診断書を書く可能性もあるのではないか。彼の場合、10代で聞こえづらくなり、35歳で全ろうと認定されており、このように段階的に進行しているのであれば、医師の立場からは診断を下しやすいということもあるはず」  佐村河内氏を一躍スターダムにのしあげるきっかけとなったドキュメンタリー番組を過去に放映したNHKをはじめ、多くのメディアは過去記事の削除や本の回収・絶版を表明し、「おわび」に奔走している。  “ウソ”を見抜けなかったメディアが批判に晒されるのも無理はない話だが、この「詐病」疑惑、果たしてクリアになるのだろうか? <取材・文/日刊SPA!取材班>
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