「危険ドラッグですべてを失いました」元外資系エリートサラリーマンが激白
危険ドラッグの使用が原因と疑われる2014年の死者数は計112人――これは今年1月、警察庁が発表したデータだ。危険ドラッグによる奇行、陰湿な事件が続出していることは周知のとおりだが、12年の死者数が8人、13年は9人だったことを考えると、その被害の急増には辟易とするばかりだ。
「1日3gもキメたら、致死率は確実に高まると言われてますが、体になじめば(耐性ができれば)、1日6gを吸っても平気です。ただ、吸い続けた結果、カネも友人も社会的地位も、すべてを失いました」
そう語るのは、危険ドラッグ体験を綴ったブログ「重度の元危険ドラッグ中毒者で廃人だった俺」のKEN氏(31歳)。外資系医療機器メーカーに勤めていた、元エリートサラリーマンだった彼は、職、カネ、人間関係のすべてを失うまで危険ドラッグにハマり続けた。その転落までの経緯を明かしてくれた。
「東京生まれの僕の周りには不良の友達が多く、大麻は一時期プッシャー(売人)をやってたこともあるほど、容易に手に入りました。エクスタシーとLも一時期やってましたが、メインは大麻でしたね。クラブで音楽活動をやっていた関係から『ナチュラルはいいけどケミカルはダサい』って文化があったんです」
大学卒業後、外資系の大手製薬会社に入社。仙台支社に勤めていたKEN氏。11年当時、大麻には月10万円ほど使っていた。
「キメるのは週末、クラブで遊ぶときくらい。生活費を削ってまで大麻を買うようなことはなく自制できてました。仙台でも脱法ハーブは出回り始めてましたけど、『大麻に手を出せないハンパなヤツらの遊び』って感じで見下してました。たまに吸ったことはあって、効きは大麻に近いんだけど、味が薬品臭くて好きになれなかった。『これにハマることはないな』って感想でした」
KEN氏がハーブにハマり始めたのは、別の外資系医療機器メーカーからヘッドハンティングを受けて、職場である大阪に移り住んでからのこと。売人のコネもなく、大麻が入手できない。仕方なく、アメリカ村にあったヘッドショップでハーブを購入。パウダー、リキッド、葉っぱのタイプのうち、大麻に似た「葉っぱタイプのダウナー系」を使用していた。
「転職先の営業部は地元の社員ばかりでちょっとした疎外感を感じていました。『もっと楽しいことないかなぁ』と、試しに“シャキシャキ系”といわれるハーブを購入したんです。これがヤバかった。これまで味わったことのない快感に包まれるんです。性欲が25倍に高まる。具体的には、クラブで女のコを見るだけで勃起する。電車の中で向かいに女のコが座るだけでコーフンする。そのコーフン状態で家に帰ってオナニー、その繰り返しでした。セックスなんてした日には大変です。セックスって射精の瞬間がマックスに気持ちいいけど、それが行為中、ずっと持続する感じですから」
KEN氏がハマったハーブは、1パック3gで5000円だった。
「最初は吸ったら気持ち悪くなって嘔吐――の繰り返しで、どこかに多幸感が残るかなって感じ。まずは1パックを1週間かけて吸いきれるかってところから始めます。それがだんだんなじんでくると、1パックを3日に1回、2日に1回で吸い切ります。最終的には1日1パック。その頃には、最初感じていた『飯が食えない』、『吐き気がする』って症状はなくなります。毎日吸ってたから、最低でも月15万円はハーブに費やしてましたね」
もちろん、平日には仕事がある。営業の外回りに行くフリをして、外でハーブを吸う、そんな毎日。週末だけの遊びにしようなんて気は起きなかったという。
「多幸感を味わいたいってのもあるけど、何より、効果が切れたときの“オチ”が怖くて、切らすことができませんでした。オチるときは、勘繰り出したら最後。『あいつが俺のことを見てる』、『俺のオナニーを邪魔するつもりか、絶対許さない』って暴力的な感情に支配される感じで。バッドドリップのときは「デパス」という精神安定剤を併用してましたが、それより、切らさないことのほうが重要でした」
もちろん、仕事になるはずもなく、職場でもおかしな言動が目立つようになり、KEN氏は13年8月に退職を余儀なくされる。
「退職金は50万円。当時は『やった、これで毎日ハーブが吸える』って気持ちしかありませんでした。風俗店を何軒もハシゴして、ハーブの吸引と射精を繰り返す。あっという間に貯金は底を尽きましたね」
その年の暮れ、東京の実家に戻るが、ハーブを辞めたいとは、一時たりとも思わなかった。
「母親の財布からカネをくすねて、歌舞伎町までハーブを買いにいきました。再就職しようとか、そういうつもりはまったくなくて、頭の中はハーブ、ハーブ……それだけです。ただ、歌舞伎町で買ったハーブは何か違ってて。効きは変わらないけど、意識が飛ぶんです。法規制とのイタチごっこでめまぐるしく成分が変わった結果の副作用だと思いますが……」
事件が起きたのは14年の1月5日。白昼、歌舞伎町でハーブを購入、路地裏で吸ったのを最後に完全に記憶を失ったKEN氏は、韓国料理店で女性客3人組の胸を次々に揉むという奇行に及ぶ。気付いたのは、新宿署の取調室の中。被害届は出されなかったため逮捕はされなかったが、都内の隔離施設に2か月間の強制入院を余儀なくされる。
「禁断症状がすごいのと徘徊したり暴れたりするリスクがあるので抑制帯をすることもありました。ただ、それでも吸いたくてたまらない。退院時の所持金は2000円ですが、『これで1g(1800円)だけ買える』って喜び勇んで歌舞伎町に向かいました。で、早速キメて『戻ってきたー、こっちの世界に』って感じだったけど、数十分後に切れて、地獄のような“オチ”がやってくる。帰りの電車の中で、『どうしよう、どうしよう。もうハーブを買うお金もない、どうしよう』ってジッとしてられなくて。その時、本気で思ったんです。もうやめないとって」
親、仕事先にも迷惑をかけ、気付けば周囲から友人も消えていった。
「キャリアも断たれた僕にできる仕事は少ない。残された道は、僅かな日銭をハーブに変えるだけの中毒者としての人生か、死ぬか、もう一度、社会人としてやり直すかの3つ。禁断症状に耐えながら、何度も『ここでハーブを吸えたら』と思うのですが、『ここで手を出したら、またもとの繰り返し』ってことだけは自覚できた。そのうち、『こんな簡単に人生を壊せるモノが無くなれば……』って思いにたどり着いたんです。完全に自業自得だけど、中毒者で廃人だった自分の体験を広く伝えて、少しでも多くの人が『手を出したらいけない』ってことに気付いてもらいたい。そのため、薬物撲滅、怖さを教える講演活動、薬物依存者の社会復帰への道のサポートに尽力していけたらと思います」
後で調べたところ、KEN氏がハマっていたハーブは、カチノン系という成分のものであった。研究センターの調べによれば、覚せい剤の2、3倍もの覚せい効力があるという。これほどの強烈な刺激、快楽をもたらす薬物が、比較的安く手に入るということも、使用者増加の一因となっているのは間違いない。KEN氏の体験を反面教師とするなら、危険ドラッグには、絶対に手を出してはいけないのだ。 <取材・文/スギナミ 撮影/丸山剛史>
【KEN氏】
実体験で得た危険ドラッグの怖さを綴り、薬物撲滅を目指すブログ「重度の元危険ドラック中毒者で廃人だった俺」(http://ameblo.jp/aa00330033/)は1日のアクセス数が5万近くあり世間から注目されている
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