茶葉の放射線量「汚染が減った」報道も必要
―[茶葉名産地でセシウム検出]―
【茶葉の名産地でセシウム検出】
2011年5月に神奈川県の南足柄茶で570Bq/kgという暫定基準値(500Bq/kg)超えのセシウムが検出されて以来、6月には静岡県の本山茶(679Bq/kg)、埼玉県の狭山茶などでも暫定基準値超えが続出。そのため、日本茶の消費量が原発事故後に激減した。特に狭山茶はセシウム濃度が高く、消費者の買い控えが進み廃業に追い込まれる業者も続出した
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◆来年お茶の放射能濃度は低くなる
お茶の生産者にとっては朗報ともいえる研究結果が出た。
「土壌に落ちたセシウムを1か月後に調査したところ、茶葉にはほとんど移行していない」というものだ。この研究結果をまとめたのは、野菜茶業研究所(静岡県島田市)の野中邦彦氏と松尾喜義氏。
「放射線を出さない同位体のセシウム133を使い、一番茶を採取した後の今年6月に実験を行いました。セシウム溶液を(1)摘み残した古い葉に霧状に散布(2)降雨状に散布(3)土壌だけに散布――の3種類の茶を栽培し、1か月後に採取した二番茶の新芽を乾燥させて比較しました(現在も調査継続中)。1区画(4.5m2)当たり約2万4000μgのセシウムを散布したところ、(1)は11.7%、(2)は6.7%、(3)は0.0%と、土壌だけの場合はほとんど移行しないとの結果が出たのです。原発事故後、葉に降り注いだセシウムが栄養分を必要とする新芽に流れたと考えられます。葉から新芽にはかなりの割合で移行しますが、土壌から新芽への移行は少ないと言えるのではないでしょうか」
つまり、狭山茶をはじめ日本のお茶が汚染された原因は、土壌汚染によるものではなく、原発事故後に空から降り注いだ放射性物質だということになる。
「’86年のチェルノブイリ事故の影響で、トルコでは一番茶から約3万Bq/kg、二番茶から1万5000Bq/kgのセシウムが検出されました。しかし、翌’87年の一番茶では2014Bq/kgまで下がったのです。研究は1か月の実験結果なので、確証とまでは言えませんが、来年のお茶のセシウム濃度は格段に下がると言えるのではないかと思います。『深刈り』を行い、古い枝や葉を深く刈ることによって、セシウム移行をより抑えることができると思います」
松尾氏が最も懸念しているのは、日本の茶文化の衰退だ。
「一番茶の新芽のよい部分だけを厳選したお茶ほどセシウム濃度が高くなる。ですから、伝統農法・有機農法などで、手間をかけ丁寧につくられ、厳選された“いいお茶”ほど数値が高くなってしまう。逆に、二番茶や三番茶、他産地の茶葉がブレンドされた質の低いお茶のほうが、濃度は低くなります。お茶は単なる食文化というだけでなく、礼儀作法やもてなしの文化など、日本文化の根本をなしています。この買い控えが続けば、日本のお茶文化は衰退し、良質なお茶がつくられなくなってしまうのではないかと危惧しています」
茶葉のセシウム汚染については、生産者には何の責任もない。また、お茶をどれだけ飲めばどれだけの放射能を摂取するかもよく知られていない。マスコミは「汚染された」報道ばかりに集中しがちだが、「汚染が少なくなった」報道も必要だ。1年後の茶葉の汚染度が低くなることを願い、今後も注視していきたい。
取材・文/北村土龍 撮影/田中裕司
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