更新日:2022年08月08日 03:15
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黒木渚のアルバムをモチーフにした映画『うつろいの標本箱』制作秘話。原曲者・黒木渚、監督・鶴岡慧子、主演・櫻木百…女たちそれぞれの思い

――黒木さんは『標本箱』を、どんな思いで制作したんですか。 黒木:それまでバンドで活動していたんですが、ソロ第一弾としてアルバムを出すということで、これをするためにソロになったんだって殴りつけるみたいな。新しい私はこういう道を進んでいくんだということを示したかったんです。リード曲になっている「革命」が、その時の心境を反映している曲なんですけど、これを軸にしてコンセプチュアルなことをやりたいなと。私はテーマに沿って集めることや、コレクションをするのが癖としてあるんです。それに出揃っていた曲が、様々な女の人生を描いている歌詞が多かったので、ここは女の生き様というテーマで括ってアルバムにしようと。それで『標本箱』という名前を付けて、一つひとつ女をピン止めしていくみたいなイメージで作りました。 ――バンドからソロになった直後だと使うエネルギーも倍増しますよね。 黒木:めちゃめちゃ気合いが入っていた時期で、とにかくやるしかないって気持ちでしたね。結局、何か大きな決断をした時は気合いだなって状態だったんですよ。やっと力が抜けて、良い具合にリラックスできたなと思い始めたのは、わりと最近なんですよね。ただ失敗したら自分のせいっていうソロの立ち位置はやりやすいし、性に合っているなと思いました。 ――バンド時代よりも曲調やアレンジが多彩でポップになった印象です。 黒木:誰もが聴きやすいものは意識しました。小難しいことをやらなくったって、テーマと歌詞とメロディーがしっかりしていれば伝わるんですよ。そこに素敵なアレンジが加わればなお良しと言うことでプロデューサーの松岡モトキさんと相談しながら、錚々たるミュージシャンの方々が協力してくださったので、ミュージシャンの持っている手癖だとか個性を存分に入れてもらいました。 ――女性の情念を感じさせる歌詞でも曲調はポップみたいな、ギャップのある曲も多いですよね。 黒木:たとえば歌詞に業がこもりすぎていたら鬱陶しくなりたくないから曲をポップにするとか、曲調がマイナーコードだったら歌詞に可愛らしいフレーズを入れるとか、何かでバランスを取るみたいなのはありましたね。 鶴岡:今のお話を聞いて「なるほど」と思ったんですけど、まず1曲目に「革命」がくるじゃないですか。そこで、まず「お!」ってなるんですけど、アルバム全体は間口が広いというか、すごく入りやすいなと思いました。そこからの楽しみ方は自分なりにどうぞって差し出されている感じがして、勝手に解釈できるというか。ずーっと聴いていく中で、私と共鳴する部分みたいなものを探せた感じがしました。 ――ライブで黒木さんを観た時の印象はいかがでしたか。 鶴岡:身一つでパフォーマンスをされている感じが非常に潔いなと。すごく偉そうな言い方になっちゃうんですけど、奢ってらっしゃらないというか、ちゃんと地に足の着いたところから届けようとしているのが感動しましたね。ちょっと自分は特別だというところから物を語るのは簡単だし、そういうものが今は多い気がするんですよね。

つるおか・けいこ

黒木:そもそも黒木渚って名前でやっている時点で、他の何者にもなれない、スイッチングみたいなものがない道を選んだので、もう地で行くしかないなと。実際、あらゆる創作物や芸術を見渡すと、個人的に泥臭いもののほうが好きなんですよね。生き様の見える表現のほうが、生きている感じがするというか。 ――百さんが黒木さんの曲を始めて聴いたのはいつ頃ですか。 百:『うつろいの標本箱』の出演が決まってからですね。それで2014年11月29日に私の生誕ライブを開催したんですけど、黒木さんにも出ていただいたんですよ。 ――けっこう関係は長いんですね。 鶴岡:百ちゃんは私よりも先に黒木さんに会ってたの~って胸がざわめきましたよ(笑)。 ――抜け駆けだと(笑)。 百:(笑)。それから黒木さんのライブを何度も観させていただいたんですが、すごく歌詞が感性に突き刺さるんですよ。特に劇中でも使われている「金魚姫」の歌詞が好きで、聴き方によって、いろんな解釈ができるんですよね。よく黒木さんの歌詞をツイートしていたんですけど、「これ誰の歌詞?」と訊かれた時は、すごく自慢気に「黒木渚さんだよ」って(笑)。 ――黒木さんのライブを観た印象はいかがでしたか。 百:カッコ良かったですね。私は一人でステージに立ったことがないんですけど、一人でやるのはパワーも必要だし、その迫力がライブから伝わってきました。 ――黒木さんは百さんに初めて会った時、どんな印象を持ちましたか。 黒木:なんて美しい人なんだろうと。当時はロングヘアだったんですよね。けっこう私は「楽屋静か派」なので、壁と同一化しているんです(笑)。共同楽屋だと仲良くなりたくてもガツガツ行けなくて、こっそり百さんを遠くから見ていたんですよ。ヘアメイクをしていて髪をクルクル巻いていたんですけど、その姿が絵画みたいにキレイで、こんなに可愛かったら人生楽しめるよな~っておっさんみたいなことを考えていました(笑)。 ――百さんが黒木さんを初めて観た時の印象は? 百:「本物キター!」って(笑)。すごくオーラがあって、挨拶に行きたかったんですけど話しかけていいのか分からなくて。でも思い切って話しかけたら、すごく優しい方でした。
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『標本箱』からの選曲はどのように?
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出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集も務める。

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『うつろいの標本箱』
2016年10月29日からユーロスペース(東京・渋谷)でレイトショー公開
監督:鶴岡慧子
出演:櫻木百、小川ゲン、赤染萌、小出浩祐、橋本致里、佐藤岳人、illy、佐藤開、岡明子、伊藤公一、大森勇一、森田祐吏、小久保由梨、今村雪乃、渡辺拓真
製作・配給:株式会社タイムフライズ
エンディングテーマ:「テーマ」黒木渚(ラストラム・ミュージックエンタテインメント)
2015年/日本/DCP/95分/カラー
公式ホームページ http://hyohonbako.com/
標本箱

まるで映画のような舞台のような音楽。様々な女の物語が詰まった待望の1st full album 完成!

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