黒木渚のアルバムをモチーフにした映画『うつろいの標本箱』制作秘話。原曲者・黒木渚、監督・鶴岡慧子、主演・櫻木百…女たちそれぞれの思い
――鶴岡監督は11曲収録の『標本箱』から、劇中に6曲を使用していますが、どのように選曲したんですか。
鶴岡:単純に聴きこんだ中で気に入った曲を選びました。なおかつ、あんまり歌詞から意味を拝借し過ぎてシーンとピッタリくっつけるよりは、まず映画というのがベースにあって、ちゃんと音楽として寄り添う形が好きなんですよね。そこのバランスは気を付けました。もともと劇中で、生で女の人が歌うシーンを撮るのが好きなんですよ。そういう意味でも、今回は黒木さんの曲を役者さんに歌ってもらおうみたいな、そういう方向性を自分で決めていたので、シーン毎に曲の入れ方を変えるとか自由に発想しました。
――女優さんが歌う曲の割り当てはどのように決めたんですか。
鶴岡:一応、どの曲を歌いたいか希望は訊いたんですけど、希望通りに歌えたのは一人ぐらいじゃないかと(笑)。やっぱり人気の曲は集中するんですよね。
――どの曲が一番人気だったんですか。
鶴岡:「はさみ」ですね。私自身、この曲は見せ場に持っていきたいと思っていたので、普段は歌のお仕事をなさっているillyさんに歌ってもらいました。
黒木:やっぱり! とても「はさみ」の歌が上手かったので音楽をやっている方なのかなと思っていました。
――黒木さんは、自分の曲を女優さんが歌うのを聴いて、どのように感じましたか。
黒木:純粋に嬉しかったですね。ライブのように勢いよく歌ったり溌剌と歌ったりするんじゃなくて、自然に口ずさむとかウィスパーボイスで歌うなど手法が違うと、こんなに印象が違うんだと。これはこれでいいなって発見もありました。
――歌い方はお任せだったんですか。
鶴岡:「洗濯物を干す時みたいな感じで歌ってください」とか、けっこう細かく言いましたね。あと、あんまり意味とかを考えないで歌ったほうが良い人と、ちゃんと気持ちを乗せて歌ったほうが良い人と、それぞれの方向性を付けていきました。
――百さんは黒木さんの曲を歌ってみていかがでしたか。
百:私は冒頭からアカペラで歌うんですけど、恥ずかしさで冷汗が止まりませんでした(笑)。普段アカペラで歌うことなんてなかったし、黒木さんの曲は音程が難しいんですよね。
――完成した映画を観て、黒木さんはどんな感想を抱きましたか。
黒木:ふんわりと絡み合っている女たちの生き様が描かれていて面白かったですね。アルバムの『標本箱』は一人ひとりのモデルケースと言うか、女のカテゴリーの中から一人ずつをバラバラに展示しているイメージだったんです。それが映画では群像劇に仕上がっていて、登場する女性たちに接点があったら、どう発展していくのかというアイデアを、なぜ私は思いつかなかったんだと(笑)。そもそも誰かのクリエイティブなものに触れて、また新しいクリエイティブが生まれるという連鎖が形になったのが嬉しかったですね。クリエイター同士が連鎖して映画になったり音楽になったりが繰り返されるのは正しい芸術のあり方だと思うし、それが若い女性アーティストの中で起こったのが嬉しかったです。
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――女性の映画ではありますが、男性の描き方もリアリティがありました。
鶴岡:やっぱり最初は『標本箱』ってアルバムから受けたバトンみたいなもので、女性を強調しようと思っていたんです。でも女性を強調すればするほど、男性を撮るのも面白くなってきて。今まで私は女の子を主人公にして映画を撮ってきたんですけど、ワークショップでエチュードとかをやってもらう中で、俳優さんたちからもらうアイデアもいっぱいあって楽しかったですね。
――感情を抑えたシーンが多くて、どの役者さんからも相手を気遣うような優しさが伝わってきました。
鶴岡:役者さんたちとのコミュニケーションがダイレクトに映画に現れたかなと。集まった15人のチームから受けた印象が、すごく反映されています。皆さん、すごく柔らかいんですよ。お互いがお互いを思い、やり合っていて、私が一番になろうって人が、あまりいなかったというか。お互いにお芝居をし合うってことに楽しみを見出している人たちが集まったので群像劇になったんでしょうね。
――演技はエチュード(即興)が多かったとのことですが、どのように進めていったんですか。
鶴岡:脚本を書きあげるまでにワークショップで役者さんたちに、いろんな組み合わせでエチュードをやってもらったんです。そこから私が受けるインスピレーションを脚本に起こしていったんですよね。その時に、ここは文字にしてセリフを全て起こすよりも、アドリブでやってもらったほうが面白いって人たちには「アドリブで」と脚本に書いてあって。百さんも出ている大学生4人がペチャクチャ喋っているシーンなどはそうですね。
百:撮影本番までにすごくコミュニケーションを取っていたので、決まったお芝居じゃなくても、こうくるだろうな、こう返してくるだろうなって分かるんですよね。そういうスピード感が芝居をやる前に分かったのは良かったですね。
出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集も務める。
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『うつろいの標本箱』
2016年10月29日からユーロスペース(東京・渋谷)でレイトショー公開
監督:鶴岡慧子
出演:櫻木百、小川ゲン、赤染萌、小出浩祐、橋本致里、佐藤岳人、illy、佐藤開、岡明子、伊藤公一、大森勇一、森田祐吏、小久保由梨、今村雪乃、渡辺拓真
製作・配給:株式会社タイムフライズ
エンディングテーマ:「テーマ」黒木渚(ラストラム・ミュージックエンタテインメント)
2015年/日本/DCP/95分/カラー
公式ホームページ
http://hyohonbako.com/
『標本箱』 まるで映画のような舞台のような音楽。様々な女の物語が詰まった待望の1st full album 完成! |
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