更新日:2022年08月08日 03:15
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黒木渚のアルバムをモチーフにした映画『うつろいの標本箱』制作秘話。原曲者・黒木渚、監督・鶴岡慧子、主演・櫻木百…女たちそれぞれの思い

――今日は事前に、それぞれ質問を用意していただきましたが、まずは黒木さんから二人に質問をお願いします。 黒木:鶴岡監督にお勧めの映画を教えてほしいです。映画監督がお勧めする映画って興味あるんですよね。 鶴岡:プレッシャー(笑)。私が方々で言っているのは相米慎二監督が大好きで、大学の時に初めて観て、そこから受けたインスピレーションを、映画を撮る時には常に持っているんです。個人的には『お引越し』が好きなんですけど、なんとなく黒木さんは『台風クラブ』とか好きかもしれない。とにかく相米さんの映画は、どれも素晴らしいです。ものすごく役者さんに負荷をかけて撮るんですけど、そのかけた負荷から出る輝きがすごくて、作品としても面白いです。 黒木:ぜひ観ます! ――ちなみに鶴岡監督は役者さんに負荷はかけるんですか。 鶴岡:私はかけないよね? 百:そうですね(笑)。 鶴岡:逆に「何も言わないですけど大丈夫ですか?」と言われるぐらい(笑)。 ――黒木さんはどういう映画を観ることが多いんですか。 黒木:映画好きなので、やたらめったら観るんですけど、最近は『インターステラー』をきっかけにSF物にハマっています。あと『イン・ザ・プール』や『ハサミを持って突っ走る』などの精神科医物も好きだし、『アメリ』みたいな女の子が好きそうなのも観ます。最近の映画だと『後妻業の女』や『シン・ゴジラ』も観ました。 鶴岡:幅広い! 黒木:ミーハーなんですよ。あと『シャイニング』とかホラー系も好きですね。 鶴岡:ホラー好きなら『死霊館』は面白いですよ。続編の『死霊館エンフィールド事件』も良いです。ホラーって構える人も多いですけど、この作品はエンターテイメントとして良く出来ているのでお勧めです。 ――黒木さんから百さんへの質問は? 黒木:百さんにはお芝居をする時って、その役に自分が憑依するのか、それとも憑依されているのかどっちなんですか。 百:え~! 難しい質問ですね(笑)。 黒木:憑依するだと百さん自身が誰かの中に入りこんで百さんの意識で動かす、憑依されるだと百さんの意識はどこかにいっちゃって誰かが入りこんでくるみたいなイメージなんですけど。 百:その時によって違いますね。自分の感情に近い時は憑依されているし、あんまり自分にない感情の時は憑依しています。 ――続いて百さんから質問をお願いします。 百:鶴岡監督が映画監督になろうと思ったきっかけは? 鶴岡:「雷に打たれました!」みたいな経験はないんですけど、私は訪れた人がビックリするほど田舎に生まれ育って。しょっちゅう映画館にも行けず、ビデオで映画を観るのが基本だったんです。学校から帰って夜は映画を観るって時間が一番楽しかったんですよね。それで翌日は観た映画のことをボーっと考えている日々を送っていて、一つボンヤリと覚えているのは、お風呂に入る時に服を脱ぎながら「映画監督だったら、私のやりたいこと全部に○が付くかもしれない」って思ったんですよね。他に選択肢を持つほど物を知らなかったので、そのまま映画監督になりました。 百:その時はどういう映画を観ていたんですか。 鶴岡:『スター・ウォーズ』とか(笑)。あと昔から周防正行監督の映画は大好きでよく観ていましたね。 百:黒木さんにお聞きしたいことも近いんですが、音楽活動をしようと思ったキッカケは人生で何が重大なことがあったのかなって(笑)。あと、どこから歌詞のインスピレーションが生まれてくるのか不思議なんです。

さくらぎ・もね

黒木:私が最初に歌を書いたのは自分のためで、音楽家になろうなんて1ミリも思っていなかったんですよ。その時期は吐き出さないとやっていけなかったんですよね。「くそったれ」という気持ちを作品にしていくと、何か納得ができたんですよ。作品という名目であれば怒りとか哀しみとかが私の中でひと段落するというか、昇華されてOKみたいな。そうやって自分のために書いた延長がバンドになり、誰かのために歌うようになりと、真っ当な方法で音楽家になった気がしています。歌のインスピレーションは、ほとんど文学ですね。本が大好きで、サブカル系だったりアングラ系だったり、東野圭吾さんとか王道のエンタメも読みます。その中で言葉を蓄積して、その語彙を見返すと、これ使えるじゃんというのが転がっていたりして。「金魚姫」だったら俵万智さんの歌集『チョコレート革命』を読み返していた頃で、はんなりした女性ならではの世界観が良いなと。そういう歌が書きたいと思って作った曲ですね。そこにもインスピレーションの連鎖が起きているんですよね。 ――では最後に鶴岡監督から質問を! 鶴岡:本当にどうでもいい質問なんですが……黒木さんは剥製好きですよね? 黒木:好きですね。 鶴岡:私も剥製が大好きで、収集したり作ったりはないんですけど、ずっと映画に剥製を出したくて。剥製のキャスティングにもこだわって博物館の取材に行ったんですけど、その時に「剥製師になりたい」って思ったんですよ(笑)。黒木さんは剥製師にお会いしたことがあるんですよね。その時の話を訊きたかったんです。 黒木:壁の剥製が喋るという内容の小説『壁の鹿』を書く時に、宇都宮まで剥製を作っている有名なおじさんに会いに行ったんです。すごくボロボロの老廃した建物の中に鳥とか小さい剥製が下がっていて。わざわざ東京から剥製を見に来る女性が珍しかったのか、めっちゃおじさんのテンションが上がっちゃって。「裏にもっとあるよ」みたいな(笑)。あまりに良い感じのおじさんだったので、そのままモデルとして小説にも書きました。 ――印象に残っている剥製はありましたか。 黒木:コリー犬の剥製ですね。博物館にある剥製って熊や鹿や狼ってイメージじゃないですか。でも犬みたいな普通のペットも剥製になるんだと意外で。しかも、めちゃくちゃ埃を被っていて、「これ何ですか」って訊いたら、せっかく作ったのに飼い主が取りに来ないと。あと剥製にしたら、「ウチの犬と違う」と引き取らない人もいるらしくて。やっぱり本物と同じようには作れないんですよね。中途半端に形だけが残っている剥製を拒絶する飼い主、それを見続けてきたおじさん、みたいなのが印象的でした。 鶴岡:百ちゃんにはストレートに『うつろいの標本箱』の撮影楽しかった? 百:楽しかったですよ~(笑)。 鶴岡:良かった~。百ちゃんってポーカーフェイスというか、普段はクールなんですよ。でもお芝居をしている時は綻ぶ瞬間もあった気がして、これは私の片思いなのかなって思ったりもしたんですけど。 百:ポーカーフェイスですか? 心の中は、いろんな感情が渦巻いていますよ(笑)。 鶴岡:接してみると裏表がない性格なのかなと。百ちゃんに演じてもらったイツキちゃんって子も、同性から見たら「あの子、いつも男の子と遊んでいて感じ悪い」って誤解されそうな子なんですけど、話してみると意外に物をはっきり言う素直な子なんです。その役柄をすごく良い感じに百ちゃんは演じてくれたなって。 百:嬉しい~。ありがとうございます! ●『うつろいの標本箱』 2016年10月29日からユーロスペース(東京・渋谷)でレイトショー公開 ●鶴岡慧子 つるおか・けいこ◎1988年生まれ、長野県出身。立教大学在学中から映画を撮り始め、卒業制作の初長編監督作品『くじらのまち』が、自主映画コンテストPFFアワード2012においてグランプリを受賞。2015年公開の第23回PFFスカラシップ作品『過ぐる日のやまねこ』で劇場デビュー。その他の監督作品に『はつ恋』『あの電燈』『ともに担げば』など ●黒木渚 くろき・なぎさ◎宮崎県出身。大学時代に独学でギター・作詞作曲を始め、2010年12月に自らの名前を掲げたバンド『黒木渚』を結成。2013年12月でバンドは解散、2014年からソロ活動を開始。同年4月に、11人の女の物語を描いた1stフルアルバム『標本箱』をリリース。2016年7月1日、配信限定シングル「灯台」リリース ●櫻木百 さくらぎ・もね◎幼少の頃よりダンスに親しみ、2012年結成のアイドルグループ「ゆるめるモ!」のエースとして活躍。ほぼ全曲の振付も担当した。2016年7月10日にグループを卒業。ゆるめるモ!在籍時から女優業も並行して行い、今作がグループ卒業後初めての劇場公開作品となる。現在は、一花寿(ひとはな・すい)の名前でアイドルグループ「Hauptharmonie」に在籍 取材・文/猪口貴裕 写真/石川真魚
出版社勤務を経て、フリーの編集・ライターに。雑誌・WEB媒体で、映画・ドラマ・音楽・声優・お笑いなどのインタビュー記事を中心に執筆。芸能・エンタメ系のサイトやアイドル誌の編集も務める。
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『うつろいの標本箱』
2016年10月29日からユーロスペース(東京・渋谷)でレイトショー公開
監督:鶴岡慧子
出演:櫻木百、小川ゲン、赤染萌、小出浩祐、橋本致里、佐藤岳人、illy、佐藤開、岡明子、伊藤公一、大森勇一、森田祐吏、小久保由梨、今村雪乃、渡辺拓真
製作・配給:株式会社タイムフライズ
エンディングテーマ:「テーマ」黒木渚(ラストラム・ミュージックエンタテインメント)
2015年/日本/DCP/95分/カラー
公式ホームページ http://hyohonbako.com/
標本箱

まるで映画のような舞台のような音楽。様々な女の物語が詰まった待望の1st full album 完成!

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