「私がコンビニの店長なら朝礼はちゃんとしたい」芥川賞作家・村田沙耶香が語る“コンビニ愛”
既存の価値観を根底から揺さぶる作風で、近年大きな注目を浴びつづけてきた作家・村田沙耶香。最新作『コンビニ人間』が第155回芥川賞を受賞し、現役のコンビニ店員であるという異色の経歴も話題になった。幼少期から生きづらさを抱えてきた少女が、作家になってたどり着いた境地とは――
――『週刊SPA!』と申しますが……ご存じですか?
村田:はい。お店で売っています。
――今も、コンビニで週3回アルバイトをされているんですもんね。
村田:若い男性のお客様がよく買っていかれる雑誌だな、というイメージを持っていました。いつもは売る側なので、出る側になるのは不思議な気持ちです(笑)。
――村田さんが口にする「お客様」をナマで聞けるとは感慨深いです。『コンビニ人間』の主人公・古倉恵子は、コンビニで働いているときだけは自分も“普通”でいられる、自分も世界を動かすシステムの歯車になれる……と喜ぶ36歳の独身女性ですが、ご自身とヒロインが繋がっている部分はあるのでしょうか?
村田:私自身ごく自然に、システムの一部になりたいと思っているような子供だったんです。おとなしくて内気で、家族からも「村田家にどうしてこんな繊細な子が生まれたんだ」とおののかれるくらいで(笑)。他の子はできる普通のことが、自分にはできない。どうしてなんだろうといつも悩んでいて、世界の“上手な部品”として動ける能力がずっと欲しかった。そういう気持ちに苦しめられている主人公は今までにも書いてきましたが、もっとユーモラスに書いてみたいと思ったのが『コンビニ人間』。「読んで笑った」と言ってくださる方もいれば、「怖かった」と言う方も多いんですが(笑)。
――笑えますし、怖いです。
村田:実は最初は、理想のコンビニを小説で書こうとしていたんです。例えば、私が働いているコンビニは朝礼がないんですが、自分が店長だったらちゃんとしたいな、とか。
――朝礼はあったほうがいい?
村田:そのほうが引き締まるなと思っていて。でも、店長がいい人で、店員もお客さんもみんないい人みたいなお店を書いていたら、すごく薄気味悪くなって、途中で方向転換しました(笑)。すごく嫌みな人物や、人間らしい生々しさのある人物を書いたことで、むしろ全体はユーモラスになった気がします。
――個性的な登場人物の中でも、白羽という新米バイトは強烈です。主人公と同年代のアラフォーなのに、婚活目的でコンビニにやってくる。そのくせ女性に対して差別発言や呪詛の言葉を連発するという……。
村田:白羽さんは「自分が男の子だったら、こんな苦しみを抱えていたんじゃないか」という発想で作った人物でした。今まで自分は女性の苦しみをずっと書いてきたけど、男に生まれたら男ならではの苦しみがきっとあったんだろうな、と。例えば、専業主夫として家事を完璧にやっているのに、ヒモみたいに言われたりすることがあるじゃないですか。
――そういうことを言いたがる人はいますよね。
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