80年代の新社会人を熱狂させた腕時計が20年の時を経て復活。新生「クラブ・ラ・メール」の挑戦
携帯電話が普及し、スマートフォンが登場した今も、ビジネスマンにとって、腕時計は欠かせないアイテムの一つだ。80年代、新社会人を中心に人気を博したシチズンのウオッチブランドが、20年ぶりに復活した。その理由と魅力に迫る。
こうして誕生したクラブ・ラ・メールには、当時としては挑戦的な施策も盛り込まれている。
「カバーガラスに、一般のガラスと比べて硬度が高く、傷がつきにくいサファイアガラスを採用しています。サファイアガラスは高価でしたが、当時で3万円という、驚きの価格を実現しています」
デザインだけではなく、機能や価格も優れたクラブ・ラ・メールは一躍注目の的に。80年代のアンティークブームにも後押しされて人気を博すも、1997年に最終モデルの生産が終了し、残念ながら表舞台からは姿を消してしまう。
それから約20年。クラブ・ラ・メールは、20~30代の若い世代に向けたエントリー機械式時計ブランドとして復活を遂げた。仕掛け人の一人である村本甲亮氏は、発表当時の反響を「40~50代の方からも、多くの反響をいただきました」と満足げに明かしてくれた。
●村本甲亮氏……シチズンファッションブランド企画室に所属。20年ぶりに復活を遂げた、新しいモデルの企画・開発を担当している
「弊社の主軸がソーラーに向いていくなかで、クラブ・ラ・メールのようなブランドは縮小傾向になり、残念ながら休眠状態となってしまいました。それから約20年が経過して携帯電話やスマホが普及し、スマートウォッチなどが登場するなかで、時計メーカーとしては、腕時計の魅力やおもしろさを今の若い世代に伝えていく責任があると考えました。そこで、クラブ・ラ・メールを復活させることになったのです」(村本氏)
新しいクラブ・ラ・メールのウリとして、村本氏たちが特にこだわったのが機械式であることだ。
「機械式時計にしたのは、機械式ならではの歯車の繊細な動きを味わってもらいたいからです。裏蓋のガラス張りのシースルーバックや、一部のモデルの文字板に設けた小窓から機械式のムーブメントを眺めることで、腕時計の歴史や長年培われた技術に触れていただき、その魅力やおもしろさを体感してもらいたいです」
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1984年に誕生したシチズンのウオッチブランド、「クラブ・ラ・メール」(CLUB LA MER)。当時のトレンドである、トラッドなデザインを取り入れたこの腕時計は、メーカーの想像を上回るほどの大ヒットを記録した。
「あくまで私の認識ですが、クラブ・ラ・メールの優しくて素朴なデザインが、当時の男性に受け入れられたのではないでしょうか」とは、当時のクラブ・ラ・メールの商品開発に携わった大場晴也氏。
●大場晴也氏……シチズン営業統括本部デザイン部チーフマネージャー。クラブ・ラ・メールをはじめ、数多くの時計をデザインしている
「とある店舗へ実地調査に伺ったとき、男性がお連れの女性に、『今はクラブ・ラ・メールだよ』と語っている場面に遭遇したことがあります。あまりにもタイミングがよかったので、うちの社員かなと疑いましたが(苦笑)、そのような貴重な体験ができました。クラブ・ラ・メールに携われてよかったと感動したのを覚えています」
クラブ・ラ・メールが一世を風靡する少し前の70年代。クオーツ化や電子化など、腕時計業界において技術的な革新が続いた。それに伴い、エレクトリックなデザインの腕時計が増えていった。
「そして80年代になると、文字盤に数字の入った丸いケースのクラシックなものが人気になりました」
当時の流行が、クラブ・ラ・メールの開発につながるが、「その誕生には、ほかのウオッチブランドについてもお話しする必要があります」と大場氏は続ける。
シチズンは当時、新社会人をターゲットにしたクラブ・ラ・メールのほかに、中高生に向けたジャンクション(JUNCTION)、大学生に向けたライトハウス(The Lighthouse)のブランドも手掛けていたのだ。
「これらのブランドには、一連のストーリーがありました。ジャンクションは合流地点、ひいては出会い、ライトハウスは灯台、ラ・メールは海(フランス語)を意味します。中高生が出会いを経て大学生になり、やがてその先には社会という名の海が待っている。『灯台が照らす光で海を進んでほしい』という若者たちを応援するメッセージを込められています」
新生したブランドの新たな取り組み
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