サブゥーとシーク様の“親子の断絶”みたいなやりきれなさ――フミ斎藤のプロレス読本#081【サブゥー編エピソード1】
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
199X年
サブゥーがザ・シークに対して感じているやりきれなさは、たぶん“親子の断絶”みたいなものなのだろう。
ふたりはものすごくトシの離れた伯父と甥だ。サブゥーはシーク様の偉大さをわかりすぎるくらいわかっているけれど、シーク様のほうでは甥っ子をまだベイビーだと思っている。親子のような関係ではあるが、まずプロレスありきだから、やっぱり距離がある。
サブゥーがレスラーとしてこれまでやってこられたのは、たしかにシーク様のおかげにちがいない。伯父上はヒーローであり、コーチであり、仕事のうえではボスである。
サブゥーはシーク様を尊敬しぬいていて、伯父上のいいつけは必ず守ってきた。しかし、生まれて初めてシーク様に向かって自分の意見を口にしてしまった、それも大きな声を出して。
シーク様は、だれにでも頭ごなしにガミガミとものをいう。他人のはなしなんて、まず聞く耳を持たない。もう40年もそうするクセがついているのだから、いまさらそれをどうしろといってもはじまらない。
伯父上とサブゥーの会話は、コミュニケーションであってコミュニケーションではない。シーク様が一方的にまくしたてる説教をただ黙って聞いているしかない。いままではそれでよかった。
でも、もうそれはちがう。サブゥーには自分がプロレスラーとして独り歩きをしはじめているという強い自覚、自負がある。アメリカじゅうのインディペンデント団体というインディペンデント団体を渡り歩いているし、チャンピオンベルトだって手に入れた。
WWEとコンタクトを取ってTVテーピングに出場してきた。サブゥーの試合――番組収録用ではないダーク・マッチだった――になると首脳陣がみんなバックステージから出てきて、通路の奥のほうでサブゥーの動きを凝視していた。
TVテーピングが終わるとビンス・マクマホンから声をかけられ、ほとんどその場でWWEとの契約が決まりかけた。ビンスはサブゥーの風貌が気に入ったようで「キミはボンベイ出身がいいな」とつぶやき、思いつきのリングネームをいくつか並べてみせた。
リングネームを変えられてしまうことには抵抗があった。“サブゥー”は伯父上からいただいた大切なアイデンティティーだし、シーク様がいない場所でそんなはなしをすること自体が言語道断のように感じられた。
それでも、サブゥーはできるだけ落ち着いてビジネス・トークをつづけようとした。WWEとFMWの両立は可能かどうか知りたかった。
もちろん、いままでそんなことをやったレスラーがひとりもいないことはサブゥーにもわかっていた。だからこそ、なんとか最初の“例外”になれないものかと思った。そもそも、シーク様の教えとはそういうものだった。
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