写真:井口 翔平
現実では「逃げ恥」のようにはいかなかった
佐々木:おもしろい考えですよね。そこまでお互いの結婚に対する価値観は合っていたのに、長く続かなかった理由はなんだったんでしょうか。
櫨畑:ここまで話を聞いていてわかると思うんですけど、助け合い結婚って、ロマンチックラブじゃないんです。でも、契約結婚して3か月くらい経ったころ、彼が私に対して
一般的な夫婦のような感情を持ってくれるようになったんですよね。
黒木:あれ? そもそもの話とは、まったく違う方向にいってるぞと。それでは普通の恋愛結婚を求めてしまっているというか……。
櫨畑:そうですね。うーん。やっぱりだいたい結婚をするうえで、わたしの一番の目的は妊娠だったんです。周りの人には、「公開のセフレみたいなものじゃん」と言われたけど、本当にその通りだと思ったし、それで良かった。
パートナーとセックスして、妊娠したら契約を更新する、という感じが理想でした。彼に同居を持ちかけられた時、「だから、そういう結婚をしたくないって言ったやん」と伝えたんですが、彼の私への気持ちがそれだけ大きくなっていたんでしょうね。ただ、私としては
理想のだいたい結婚とは違うなと思い、7か月で契約は解消しました。
佐々木:わたしも昔、恋愛したい相手と一緒にいて落ち着く相手は違うなって思いました。もっと言うと、結婚したい人とセックスしたい人は違う。一生その気持ちが交差しないと嫌だなと思ったので、周囲の友人に「夫婦ユニットをつくろう」と提案したことがあります。
最初はうまくいくんですけど、“セックスはしたくないけど、一緒にいたい相手”から一線を超える感じがあって。どちらかの“恋愛的な好き”が強まってしまうタイミングはありますよね。今も諦めていなくて、両方が揃う人を探しているのですが、難しいです。
櫨畑:「逃げ恥」みたいな感じなんですよね。契約結婚というか、就職するうちに、うまくいってしまったっていう。
黒木:あのドラマは、双方が歩み寄ったからよかったけど、片方の気持ちだけが大きくなってしまうと、関係は破綻しちゃう。お互いに恋愛感情が生まれれば、一件落着だけど、そういうパターンってほとんどないと思う。
櫨畑:佐々木さんが提案した夫婦ユニットは、何を目指してたんですか?
佐々木:生活を一緒にして助け合いをしたいと思っていた。単純にシェアハウスみたいな感じ。
櫨畑:合理的といえば合理的だよね。家賃も光熱費も浮くし。別に男女ふたりじゃなきゃいけないわけじゃないじゃない。男女三人でもいいよね。セックスが必要なわけじゃないんだから。でもやっぱり、今は“普通の結婚”に、契約結婚は負けると思いました。普通の結婚は、やっぱり偉大ですよ。人類は、この制度を長い間続けてるんですもん。そりゃ太刀打ちできませんわ(笑)。
黒木:契約結婚を解消して、今はお子さんを妊娠中なんですよね。
櫨畑:はい。契約結婚を解消してからも妊娠するために色々と模索しましたね。トルコ人男性とお見合いをしたり、「子育てしたい」という想いが一致したゲイカップルとの人工受精をしたり。本当に色んな方法を試して命を授かりました。年内に出産予定です。
佐々木:出産後は、どのような生活を送る予定なんですか?
櫨畑:関西にある長屋で友達と一緒に“生まれてくる人”を育てていく計画です。育児グッズも少しずつ揃えています。わたしは結婚していないし、生まれてくる人には戸籍上では父親はいません。それでも、契約結婚をしてくれたお相手含め、たくさんの人たちに支えられながらここまで来られたので感謝の気持ちでいっぱいですし、今はとてもワクワクしています。
現実の契約結婚は、ドラマのようにトントン拍子にはいかないようだ……。とはいえ、多様化する社会の中で、個々のライフスタイルも日々変化しているのはいうまでもない。「結婚」「恋愛」「子育て」「仕事」など、何を優先して、どう生きたいのかを決めるのは、自分自身。生き方の答えはひとつではないのだ。
【佐々木ののか】(27歳)
「家族と性愛」を専門とするフリーライター。ライター業を生業としているが、最近は作品制作や自身の活動に軸足を置く。
Twitter:
@sasakinonoka
note:
https://note.mu/sasakinonoka/
【櫨畑(はじはた)敦子】(31歳)
17歳で多膿疱性卵巣症候群(PCOS)と診断され妊娠は諦めていたが、会社員を経て保育士になりどうしても妊娠・出産がしたくなる。「積極的非婚出産後、どういう子育ての方法があるか?」と周囲を巻き込みながら、実践を続ける女性の一人。契約結婚やゲイカップルとの人工授精、多くのアプローチとお見合いも経て、とうとう授かった彼女の妊娠に関する展示を行う。
【黒木結】(26歳)
現代美術家。1991年生まれ。2017年京都市立芸術大学修士課程彫刻専攻修了。プライベートとパブリックの関係性に興味があり、2014年から恋愛結婚と現行の婚姻届との関係性を探りながら、既存の結婚観を乗り越えるための作品を制作している。
<取材・文/日刊SPA!編集部>