なあ、チェーンソー・チャーリーって男を知っているかい――フミ斎藤のプロレス読本#098【Tokyoガイジン編エピソード08】
チェーンソー・チャーリーは、ほんとうにいきなりニューヨークに出現した。
基本的なビジュアルは、赤のロングジョン・アンダーシャツ、ぶかぶかのブルージーンズ、そしてジーンズが落っこちてこないためのサスペンダー。女性用のナイロン・ストッキングを頭からすっぽりかぶって“テリー・ファンク”の顔がわからないようになっていた。
これがテリーが考えるところのチェーンソーを振りまわして人肉を切り刻む殺人鬼のイメージなのだろう。ホラーの調味料をまぶしたプロレス的なおとぎばなし、と考えればすべて説明がつく。
チェーンソー・チャーリーは、WWEの月曜夜の2時間ライブ“ロウ・イズ・ウォー”に登場した、カクタス・ジャックのお友だちという役どころだった。
“デスマッチ王”カクタスはそもそもミック・フォーリーが創りだした多重人格キャラクターのうちのひとつで、ミックはその日その日のムードによって怪奇派マンカインドに変身したり、ヒッピー系のドゥード・ラブとして自分探しをはじめたりする。
“生ける伝説”は、なにがなんでもチェーンソー・チャーリーをやってみたかったのだろう。チェーンソーとチャーリーは“きゅうりのきゅうちゃん”とか“ろくでなしのろくさん”とか、なんかそんなような英語のライミング(音韻)による語呂合わせで、ふたつの単語の頭のところの“CH”を強めに発音すると気持ちいいリズムになる。
銀行強盗みたいに茶色のストッキングを頭からかぶって、エンジンのかかったチェーンソーを振りまわしながら観客席になだれ込んでいきたい。なるべくイノセントそうなお客さんを見つけて、そこに突っ込んでいこう。チェーンソーのチェーンを鉄柱に接触させると火花がバチバチバチッと散るんだぜ――。テリーは“チェンソーのチャーリー”のアイディアをずっと自分のなかで温めてきた。
「チェーンソー・チャーリーがついた現れたそうだよ。ニューヨークでな……」
トーキョー・ガイジンの“マイク”は、しっとりと湿ったレザーフェイスのマスクに向かってやさしく語りかけた。(つづく)
※文中敬称略
※この連載は月~金で毎日更新されます
文/斎藤文彦
―[フミ斎藤のプロレス読本]―
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