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“関節技の鬼”藤原喜明「プロレスはセックスみたいなもの。裸のつき合いは深い」――最強レスラー数珠つなぎvol.15

――華々しくデビューしたにも関わらず、その後は前座の時代が続きます。 藤原:付き人を10年以上やったからね。山本小鉄さんの付き人を2年くらいやって、25歳くらいから猪木さんの付き人を10年くらい。俺は几帳面だから、付き人に向いてたんだよ。鞄はキチッとしてるし、洗濯もキチッとやるし、気が利くしな。猪木さんは、カバン持ちの俺が言うのもなんだけど、手のかからない人だった。エラいなと思ったのは、パンツだけは自分で洗うんだよね。 ――35歳まで前座をやって、その一方で道場では関節技に夢中になった。リングの上と、練習とのギャップで悩んだことは? 藤原:んなもん、悩まないよ。好きなことやって、飯が食えて、酒が呑める。それだけで幸せだったよ。百姓だから、田舎にいたら朝から晩まで働くでしょ。だけどプロレスやってれば、酒が呑めて美味いもん食べられてさ。最高じゃん。 ――もっと認められたいとは思わなかった? 藤原:本物は認められるっていう自信があったからね。 ――どうしてそこまで関節技のスパーリングにのめり込めたのでしょうか。 藤原:好きだからだよ。道場で強ければ、デカい面ができるしな。プロレスラーって、先輩と後輩がキチッと決まってるわけだよ。だけど強ければ、先輩に「オイ!」なんて言われても、「なんだこの野郎!」って言い返せる。それだけの話だよ。 ――道場破りをバンバン倒していたとか。道場破りは実際、多かったんですか。 藤原:そりゃそうだよ。猪木さんが「プロレスは世界一の格闘技だ」って言ったら、そうはいくかっていう奴が必ずいるわな。空手家が多かったな。 ――空手のキックに対しても、関節技でやっつけた? 藤原:そうそう。でも勝ったと言っても、俺らのルールでだからね。ぶっ倒して、参ったって言わせればいいわけで。ぶっ倒して、参った、ギャーと言わせる。言わなきゃ、バキバキっとやる。ヤルかヤラれるかの世界だよ。ヤルったって、女とヤルんじゃないよ。 “関節技の鬼”藤原喜明の素顔――(笑)。フロリダに住むカール・ゴッチさんのもとへ修行に行ったのは、どういった経緯ですか。 藤原:猪木さんに、「よくやってくれてるから、ご褒美をやる。なにがいい?」って言われて、迷わず「ゴッチさんのところに行きたいです」って答えたんだよ。ゴッチさんはそれまでにも新日本プロレスに来てたんだけど、もっと関節技を勉強したかったから。 ――フロリダでの1日のスケジュールは? 藤原: ゴッチさんが朝10時に車で迎えに来てくれる。いつも愛犬のピットブルを連れて来て、必ず「入れてもいいか?」って聞くんだ。毎日聞くんだよ? だからいいって言ってんだろ! みたいなさ(笑)。紳士なんだよね。家でコーヒーを一杯飲んで、車で15分か20分くらいのところにあるゴッチさんの家に行くんだ。11時頃から14時、15時までコンディショニングをやって、終わったら赤ワインと水とオイルサーディン。赤ワインに氷と水を入れて、ガーッと飲む。これが酔うんだよ。汗かいてるから、ストレートで飲んだらぶっ倒れるよ。半分に薄めても、すぐ吸収されるから酔っ払うわけ。  酔ってもすぐに冷めるんだよ。冷めたら車で街の柔道場に行ってな。ブリッジだとか、関節技はこうやるんだ、みたいなことを延々とやるんだよ。毎日、10個とか20個とか技を教えてくれるんだけど、家に帰ってくると一つも覚えてない。これはダメだってんで、1日1つか2つ、頭の中に入れて、ノートに書いていったんだよね。しばらくしてからゴッチさんに、「実はこういうの書いてるんです」って言ったら、次の日からなんにも教えてくれなかった(笑)。 ――「藤原ノート」と呼ばれるものですね。 藤原:そうそう。日本に帰ってから、前田(日明)なんかとスパーリングやりながら、ノートに書いたことを一つ一つ復習していってさ。全部復習するのに10年くらいかかった。1つ2つ分かると、パラパラパラっと分かるんだけどね。不思議なもんで。
“関節技の鬼”藤原喜明の素顔

“藤原ノート”と呼ばれるものを復刻した著書

――復刻版を読みましたが、あれを読めば関節技をマスターできますか? 藤原:はっきり言うと、見ただけじゃできない。でも、バカがいてよ。「ノートの通りにやったのに極まりません」って、そりゃ、お前が下手だからだよ(笑)。俺の教室に20年以上、来てた奴もいるんだけど、完璧な奴っていないからね。そんな簡単なもんじゃないよ。相当好きで、毎日考えながら、コツコツ20年も30年もやらないと。1回や2回、本を見ただけで分かるわけねーじゃん。 ――でも、組長の関節技はこうなっているんだな、というのは理解できました。 藤原:そうなんだよ。結局、理屈なんだよ。力学なんだよね。俺の教室には総合(格闘技)の奴らも来るんだけど、早く勝ちたい、みたいなのがあるから、みんな力任せでな。結局は力比べになっちまう。だけど俺らのは、テクニックだからね。時間がかかるんだよ。
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フロリダで佐山サトルとの生活
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ゴッチ式トレーニング

没後10年「ゴッチの愛弟子、師を語る」


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