“関節技の鬼”藤原喜明「プロレスはセックスみたいなもの。裸のつき合いは深い」――最強レスラー数珠つなぎvol.15
――佐山サトルさんもフロリダに行って、組長のアパートに居候したそうですね。佐山さんとの生活はいかがでしたか。
藤原:俺がフロリダに行って1か月か2か月くらいしてから、佐山もメキシコから来たんだよね。ゲッソリ痩せてな。あいつ上手いんだよ、持ち上げるの。「藤原さんのカレーライス食いたいな~。藤原さん、料理うまいからな~」とか言われると、「そうか? じゃあ、作ってやろうか」ってなるじゃん。「今日は肉食いたいな~。藤原さんのステーキ、うまいからな~」とかさ。結局あいつ、一回も作ったことねえよ(笑)。
関節技って、一対一だと、教えるのが難しいんだよね。「こうやるんだ」って言ったって、見えないだろ? だから、二人いたほうが分かりやすいんだよ。俺と佐山でやりながら、ゴッチさんが「ここちょっと違う」とか指導してくれて。けど、佐山とスパーリングしてて、俺が足首を押さえてバキバキっとやっちゃったんだよ。そしたらゴッチさん、「お前ら、ピットブルみたいな奴らだな」って。要するに、喧嘩っ早いというか、無茶苦茶だっていうかさ。それからはもう、スパーリングはやらせてくれなかったな。
――ゴッチさんはどんな方でしたか。
藤原:朝から晩まで、レスリングとコンディショニングのことしか考えてない人だよ。話もそればっかりだもんな。あれで人生楽しかったのかなあ? と思うんだけどね。動物園が好きでね。虎はなぜ強いのか、ジーッと見てるらしいよ。背伸びしてあくびなんかすると、「これだ!」って言って、プッシュアップの動きに取り入れたりとかな。虎はなぜ強いのかって、あれは生まれつき強いと思うんだよな(笑)。けど、あくまで「なぜ強いのか?」なんだよ。それに本をよく読んでて、哲学者みたいなことを言うんだ。カッコよかったよ。
――どんなところがカッコよかった?
藤原:臼田勝美が、ゴッチさんと銭湯に行ったらしいんだよ。臼田が後ろから付いてったらよ、ゴッチさんが「なんで後ろ歩くんだい?」って言ったんだって。「先生の前を歩くわけにはいきません」って言ったら、「練習中はお前の先生かもしれないけど、練習が終わったら友だちじゃないか」ってさ。臼田が感動して震えたって言ってた。カッコいいだろ? なかなか言えないよなあ。いまでもこうして話すと、ジーンとくるんだけどさ。
――組長とゴッチさんの関係、本当に素敵だなと思います。
藤原:俺らって、裸と裸で一緒に汗かいたり、くっついたりしてるわけだよ。ある意味セックスしてるようなもんなんだよな。だから離れていても、普通の友だち以上に、昔の愛人だったような、夫婦だったような、繋がりが深いんだよね。長いトレーニングで一緒に苦しんだり、体と体がくっついたり、汗と汗でビショビショになりながらさ。プロレスラーってそういう関係なんだよ。
前田なんかも50過ぎて、もう立派な社長なんだけど、会った瞬間40年前に戻っちゃうんだよ。ニコニコしてな。あの気難しい前田がだよ? 周りの奴らがみんな、ピリピリするんだけど。佐山だってそうだよ。佐山先生って呼ばれてるんだろ? なーにが先生だよ(笑)。まあ、考えてみると立派な先生なんだよな。けど何年かぶりに会っても、毎日会ってるような感覚なんだよね。お互いに認め合ってるしな。ちょっと間抜けだけど、こういうところは天才的だ、頑張ったんだろうなとか、いろいろな。


尾崎ムギ子/ライター、編集者。リクルート、編集プロダクションを経て、フリー。2015年1月、“飯伏幸太vsヨシヒコ戦”の動画をきっかけにプロレスにのめり込む。初代タイガーマスクこと佐山サトルを応援する「佐山女子会(@sayama_joshi)」発起人。Twitter:@ozaki_mugiko
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