2017年重大事件「座間9遺体事件」を新聞5紙はどう報じたのか?
あるニュースを新聞が書いても書かなくても、ネットで「偏向報道」だと言われる昨今。そのなかで『すべての新聞は「偏って」いる』を著した荻上チキ氏は、今年の新聞報道をどう分析するのだろうか――。
…11月以降の「座間9遺体事件」や大相撲の問題で忘れてることも多いが、生活保護や沖縄などさまざまな問題・事件があった
年初、話題となった「小田原市生活保護ジャンパー」をご記憶だろうか。読売が1月17日に報じ、その後、各紙「不正を正す仕事の大変さは想像にかたくないが、行き過ぎというしかない」(日経1月19日)といった論調だった。
しかし、産経は不正受給の問題に注目。「実態からかけ離れた正義の声だけがまかり通れば、現場で悪戦苦闘する人たちが疲弊するばかり」(1月19日)とコラムで語り、「『単純正義』が新聞を滅ぼす」というノンフィクション作家の寄稿を掲載(1月29日)した。
記事のトーンや着眼点は細部にも宿るもので、10月11日、沖縄県東村高江(ひがしそんたかえ)での米軍ヘリコプター墜落事故の一報は各紙、次のとおり。
「沖縄米軍ヘリ炎上 首相『大変遺憾だ』」(読売)
「沖縄、米軍ヘリ炎上・大破 高江 小学校から2キロ」(朝日)
「沖縄・米軍ヘリ:炎上 自宅に落ちていたら」「04年大学墜落機と同型」(毎日)
「米軍ヘリが事故、炎上――事故は大変遺憾。首相」「『生きた心地しない』周辺住民」(日経)
「沖縄の民間地 米軍ヘリ、訓練中に出火 緊急着陸、大破 けが人なし」(産経)
産経が465字のベタ記事だったのに対し、朝日は写真も用いて12日朝刊だけでもっとも多く紙幅を使い報じていた。
そして、今年の事件と言えば、恐らく犯罪史にも残る事件となるであろう「座間9遺体事件」。
「一時的な感情に基づく書き込みが思わぬ危険を招く。ネット世代に周知すべき教訓」(読売11月3日)
「利用者の側は、ネット空間には多くの悪意が漂っていることも深く自覚すべき」(産経11月2日)
というように、事件の凄惨さに驚愕し、男と被害者をつなげたネットに注目するのは5紙共通。
一方で、朝日を見ると「生きづらさを感じる人にひとりでも多く向き合い、支えになる。この痛ましい事件を経験した社会が、今なすべきことだ」(11月7日)
毎日は死にたい気持ちとの向き合い方を相談窓口と合わせて家庭面で取り上げ、社説でも「座間事件は私たちの問題」(11月2日)と寄り添う姿勢を示した。
イデオロギーと一見無関係に思えるニュースでも個性が宿る。
座間の事件は朝日・毎日と読売・産経でトーンが分かれましたね。朝日と産経は相模原障害者施設殺害事件から1年の報道でも特徴的で、産経は事件直後同様、池田小事件を例に出し措置入院について言及。朝日は差別へのソフト面での取り組みを紹介していました。
差別問題では、11月24日に自民党の竹下亘総務会長から同性愛者への差別発言がありました。これについての報道数は、読売563字、朝日4782字、毎日1464字、日経607字、産経1155字。差別問題はリベラル系の新聞がよく取り上げますが、保守系のメディアの報道数が増えると、それはひとつの変化と思って注目しています。
― 今年のニュース[新聞5紙]はどう報じたのか? ―
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