雑学

自衛隊の航空機はなぜ危険な訓練に挑むのか?



 平衡感覚まではなくなりませんが、方向感覚だけ失う経験なら、消防がやっている「煙」体験で体験可能です。自治体にもよりますが、防災イベントで機会があればぜひやってみてください。以下は「煙」による方向感覚を失った人の経験談です。

「首をちょっと動かしただけで方向感覚はなくなります。入り口から出口まで3mくらいでしたが、全くたどり着けないのです」。外には人がいて危険はないとわかっていても、動けません。人は目を信じられないとすくんでしまうのです。

「霧の中で霧の濃淡すらわからない。光も拡散されて光の方向がわからない」そんな状況になります。煙に似た霧やガスが闇をさらにわかりにくくします。

 パイロットの場合はこれに加えて平衡感覚まで失うのですから、その恐怖は察するに余りあるものです。

 実際に自衛隊のパイロットに話を聞きましたが、みな何度も同じような経験があったと言っています。それでもどうにか計器を信じ、立て直すことを訓練で学ぶようです。しかし、やはり事故は起こってしまいます。自衛隊の航空機事故のうちのいくつかは、この空間識失調が起こったのではと想像されるものです。

 自衛隊が国民の命を守るためには、危険でも修得しなければならない技能があります。しかし、ひとたび航空機事故を起こせば、自衛隊はマスコミと世論に叩かれます。「なぜ危険なフライトをしなければならなかったのか?」というところは問題になりません。しかも、過去にはパイロットが裁判で訴えられ多額な裁判費用が隊員個人にかかったこともあります(全日空機雫石衝突事故)。報われないジレンマが自衛隊のパイロットを苦しめるのです。軍用機は民間機と違い、条件を選んで飛ぶわけではない(つまり、必然的に危険度が高くなる)という認識をぜひとも持ってほしいものです。

 自衛隊が戦っている「真の敵」は「貧困」と「欠乏」と「理不尽」ですが、国民がこういったことを正しく理解してくれれば、自衛隊のパイロットが背負っている重圧も少しは軽くなるのではと思います。<文/小笠原理恵 撮影/石田和昭>

国防ジャーナリスト。「自衛官守る会」顧問。関西外語大学卒業後、報道機関などでライターとして活動。キラキラ星のブログ(【月夜のぴよこ】)を主宰
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