沖縄の基地反対活動のニュースを見るたびに暗澹たる気持ちに――国防ジャーナリスト・小笠原理恵
つまり、この移設工事は米軍基地縮小のためには不可欠な作業なのです。そして、米軍基地の縮小は、工事に反対して抗議のために集まった人たちの悲願だったはずです。しかし、彼らはそのような説明も話し合いも受け入れず、反対活動を止めようとはしませんでした。
住民がたまたま工事車両に邪魔になるものをそこに置いていただけなら、沖縄防衛局の職員が「道路をふさがないでくださいね」と申し入れすれば簡単に話は終わったのです。しかし、現実には話し合いに応じるような人たちばかりではありませんでした。
この暴行事件の後、沖縄県外の他府県から多数の警官が応援に駆けつけ、やっと工事が進むようになりました。しかし、その後も沖縄防衛局の職員さんたちは基地周辺に行くたびに取り囲まれ「安倍の犬」や「ひとでなし」、「人間失格」、「お前の顔を見せろ」、「家を突き止めて街宣活動するぞ」と暴言を浴びて屈辱に耐えながら頑張っていたのです。
「私たちはただ、工事車両が通れないので道をあけてほしいから行っただけです。円滑に工事をするために道をあけてください、とお願いしに行っただけなのです」
「現地の警察は見ているだけで助けてはくれませんでした」
「恐ろしくて逃げ出そうとしても取り囲まれる。本当に怖かった。もう2度とあんな恐ろしいことはごめんです」
それでもここで断念してはいけないと反骨精神で我慢したということです。ヘリパッドの工事が終わった後は、本土から来ていた多くの抗議活動家は消えました。キャンプシュワブ等でも騒ぎはありますがまだ小さいものです。
沖縄の基地削減はヘリパッドを移設しなければできないのですし、この移設は地元も受け入れていたのです。きちんと説明さえ聞いてくれれば「新しい基地を作るのではない」ことはわかったはずです。でも、残念なことにそこは話を聞いてくれるような雰囲気ではなかったのです。
防衛局職員は、普段は地元との交流活動や隊員募集、地域活動との連携などを考える仕事をしています。もとより、防衛省職員には捜査権も道交法違反を取り締まる権利もありません。自衛隊の職員も公務執行妨害がとれるようになれば、こういった交渉や話し合いの場に出る際の職員の物理的・心理的負担も軽減されるでしょう。しかし、彼らは全くの丸腰の事務官なのです。実際に暴行事件の被害者も出ています。その殺気だった抗議活動の現場での話し合いは、あまりにも荷が重すぎるのではないでしょうか? 相手方に暴行を加えられる可能性があるのなら、事務官にも警察のような公務執行妨害への現行犯逮捕の権限を与え、せめて身を護るための盾などを持たせることを検討しなければならないのではないでしょうか?
今回、例に挙げたのは高江のヘリパッド移設反対運動ですが、同様の反米抗議活動は日本全土で行われており、自衛隊員たちは非暴力で対処しています。一部の憲法9条を掲げる平和活動家が言うように「非暴力であれば暴行を加えられない(非武装なら戦争にならない)」のであれば被害者も出ないはずなのですが、実際には掴みかかられたり押さえつけられたりして怪我人が出、事件にもなります。集団で取り囲まれ、円座の中で周り一面から罵声を浴びせられ、物言えぬ防衛省事務官が丸腰で暴力をうけるかもしれない恐怖に耐えている姿。それは、我が国の安全保障、戦いたくても戦えない自衛隊の姿そのものに見えました。
公権力とは何でしょうか? 自衛隊や警察は倫理と法律でがんじがらめ、相手は常にフリーハンドです。怒りと悔しさに震える防衛省職員の姿はあまりにも無力でした。これで国が守れるのでしょうか。
いつまでこんなことが続くのでしょうか。「平和な話し合い」など現実には存在しない。沖縄の基地反対活動関連のニュースを見るたびに暗澹たる気持ちになるのは私だけではないはずです。<文/小笠原理恵>おがさわら・りえ◎国防ジャーナリスト、自衛官守る会代表。著書に『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』(扶桑社新書)。『月刊Hanada』『正論』『WiLL』『夕刊フジ』等にも寄稿する。雅号・静苑。@riekabot
『自衛隊員は基地のトイレットペーパーを「自腹」で買う』 日本の安全保障を担う自衛隊員が、理不尽な環境で日々の激務に耐え忍んでいる…… |
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