トリプルH WWE・イズ・マイ・ライフ――フミ斎藤のプロレス講座別冊レジェンド100<第89話>
リングの上ではマイケルズとトリプルHにチャイナを加えた3人がヒールの新ユニット、DX(ディジェネレーションX)を結成した。
トリプルHの“女性ボディーガード”としてWWEに登場したチャイナは、じつはトリプルHの当時のリアル・ライフの恋人だった。
トリプルHは、マイケルズがリングから消えた日、“レッスルマニア14”の翌日から“ロウ・イズ・ウォーRAW IS WAR”のキーパーソンになった(1999年3月30日=ニューヨーク州オーバニー)。
WWE世界ヘビー級王座を手に入れた“ストーンコールド”スティーブ・オースチンがまったく新しいタイプのベビーフェースとしてWWEのカラーを一変させた。
ザ・ロック(ドゥエイン・ジョンソン)が出現した。ストーンコールドと感情的なぶつかり合いをくり返す“ヒール社長”ミスター・マクマホン(ビンス・マクマホン)も連続ドラマの登場人物になった。トリプルHは最高のタイミングでヒール・サイドのボス格にノシ上がった。
ストーンコールド、トリプルH、ロックの3人の新しい主人公の登場で、WWEの連続ドラマはいっきにソープオペラ化した。新チャプターのキーワードは“アテテュードAttitude”だった。
アテテュードとは、人やモノに対する態度、感じ方、心がまえ、姿勢といった意味だが、単語そのものの持つイメージとしては“傍若無人なふるまい”“ごう慢な態度”といったニュアンスになる。
1990年代後半のアメリカ英語の流行語のひとつで、ストーンコールドのアテテュード、トリプルHのアテテュード、ロックのアテテュードというふうに考えてみるとわかりやすい。
大学を卒業したばかりのビンスの娘ステファニーが、連続ドラマのいちばん新しい登場人物として毎週月曜夜の“ロウ”に登場してきた。
ステファニーは若手ベビーフェースのテストTestと純愛ドラマを演じ、リング上での結婚式を迎えるが、ウェディングの前夜、トリプルHがステファニーに睡眠薬を飲ませて誘拐し、ラスベガスで“ペーパー結婚”を挙げてしまった。
花嫁の略奪というドラマは清純派ステファニーのヒール・アテテュードという新たな展開を呼び、トリプルHとステファニーは“権力カップル”としての道を歩みはじめた。
ここまでは完ぺきなフィクションのはずだったが、トリプルHとステファニーは実生活でも交際をスタートし、それから4年後にほんとうに結婚した(2003年10月)。トリプルHはチャイナを捨てて、ステファニーを選んだのだった。
ファンタジーとリアリティーの境界線のない世界の住人になったトリプルHには“ザ・ゲームThe Game”という新しいニックネームがつけられた。
ゲームには競技、試合という意味もあるし、遊び、楽しいできごとという意味もある。勝負、競争、かけ引きもゲームだし、計画、方針、手段もゲーム。ゲームというシンプルな単語にはじつにさまざまな定義が含まれる。
冠詞の“ザ”は、トリプルHこそ“ゲーム”であるという位置づけのようなものを表しているた。
“クリック”から“アテテュード”をへて、トリプルHは名実ともにWWEの“ザ・ゲーム”へと成長をとげた。
トリプルHは人生のすべてをWWEに捧げている。リングの上もバックステージもドレッシングルームも、トリプルHにとってはイン・リアル・ライフのプロレス空間。
トリプルHという人物をよく知るためのキーワードは、リスペクト(尊敬、尊厳)とデディケーション(ひたむきな、熱心な、献身的な)。
ストーンコールドもザ・ロックもいつのまにかフェードアウトしてしまったけれど、トリプルHは生き残り、生きつづけ、“ザ・ゲーム”でありつづける。プロレスラーとしてのタイプは、ひじょうに重厚な古典派ヒール志向。
トレードマーク技、ペディグリーは(家系・血統・系図)といった意味の“貴族の単語”。ダブルアーム・スープレックスのポジションから垂直にジャンプしてそのまま相手の顔面をキャンバスにたたきつけるオリジナル技は、練習生時代に“コワルスキー道場”でスパーリング中に偶然、発明した技なのだという。
アメリカのプロレスの基本形はベビーフェース対ヒールの闘いだが、試合を動かし、観客を動かし、最後の最後に笑うのはつねにヒールというのがトリプルHのプロレス哲学である。
メントア(信頼のおける相談相手、よき指導者)であり、尊敬する先輩であり、親友はリック・フレアー。
“フレアー・モデル”と呼ばれる黄金のチャンピオンベルトを大切にしたのはそのためで、ヒールとしてのレスリング・スタイルもフレアー流を踏襲した。
かつて初代“ネイチャー・ボーイ”バディ・ロジャースがそうであったように、またフレアーがそうであったように、トリプルHは“時代の顔”“プロレス界の顔”としての最高のヒール像をきわめたのである。
●PROFILE:トリプルH/ハンター・ハースト・ヘルムスリーTriple H aka Hunter Hearst Helmsley
1969年7月27日、ニューハンプシャー州ナシュア出身。本名ポール・マイケル・レベック。1992年3月。デビュー。1995年5月、WWEと契約。2003年10月、ステファニー・マクマホンと結婚。WWE世界ヘビー級王座通算9回、ロウ版・世界ヘビー級王座通算5回保持。インターコンチネンタル王座通算5回保持。得意技はペディグリー。ショーン・マイケルズとのユニットDX(ディジェネレーションX)、トリプル派閥エボルーション(リック・フレアー、ランディ・オートン、バティースタ)のボス格を演じた。
※文中敬称略
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文/斎藤文彦
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