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婚前交渉できない時代に、ひどい初夜が運命を変えた切ない物語/映画『追想』

―[モテる映画工学]―
~藤沢数希のモテる映画工学『追想』~

「セックス・トリガー」を引き損ねる悲劇を描いた文学作品の映画化

追想

『追想』©British Broadcasting Corporation/ Number 9 Films(Chesil) Limited 2017

 本作は、現代イギリスを代表する小説家イアン・マキューアンの『初夜』の映画化である。歴史学者を目指すエドワードと音楽を専攻するバイオリニストのフローレンスは、偶然にも出会い、恋に落ちる。しかし、舞台は1960年代のイギリス。彼らのような高い教育を受けている階層は保守的で、結婚するまでセックスしないことが規範だった。それに従い、彼らは結婚式を終えるまでセックスしなかった。そして、新婚旅行でやって来た風光明媚なチェジル・ビーチ沿いのホテルで初夜を迎える……。  ナンパ師なら誰でも知っていることだが、女はセックスした相手の男を好きになる傾向がある。好きな男とセックスするというよりは、むしろセックスした相手を好きになる、という恋愛工学の「セックス・トリガー理論」だ。しかし、最初のセックスのチャンスは男にとって“試練”でもある。自分の臆病さをごまかすために酒を飲みすぎたりして、アソコが思うように勃ち上がらず、最初に女がくれたOKチャンスをしくじると、基本的に二度と股を開いてくれなくなるのだ。こうなってしまったら、ナンパ師はその女は諦めて次にいくことになる。  ちょっとカタブツのエドワードは、フローレンスのことが好きで好きでたまらない。互いが運命の恋に落ちてから、何年も愛を育んできた。そして、迎える初夜。興奮と歓喜、不安がこみ上げる。最初のセックスOKのチャンスだ。しかし、これはなんというプレッシャーか! 案の定、この初夜が二人の運命を残酷にも変えてしまうのである。ああ、切ない。なんという切ない物語なんだろうか。 『追想』 配給/東北新社、STAR CHANNEL MOVIES 監督/ドミニク・クック 出演/シアーシャ・ローナンほか 8月10日全国公開
物理学研究者、投資銀行クオンツ・トレーダー職等を経て、作家・投資家。香港在住。著書に『外資系金融の終わり』『僕は愛を証明しようと思う』『コスパで考える学歴攻略法』などがある
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