更新日:2019年08月07日 16:10
エンタメ

目が見えない美しい妻が手術後、初めて見た夫の顔は…映画『かごの中の瞳』

―[モテる映画工学]―
~藤沢数希のモテる映画工学『かごの中の瞳』~
かごの中の瞳

©2016 SC INTERNATIONAL PICTURES. LTD

視力を取り戻して美しく変身した妻に、嫉妬を抱く冴えない夫

 若くて美しいジーナは目が見えない。幼い頃の交通事故で視力がほとんどなくなってしまったのだ。しかし、彼女には保険会社に勤める優しい夫のジェームズがいた。ジェームズは冴えない中年男性の風貌だが、稼ぎもよく、何より献身的に失明のジーナを支えてきた。とても仲がよい夫婦で、問題は子供ができないことぐらいだった。ある日、そんな彼らにいい知らせが届く。眼科医が移植手術により片目の視力が戻る、というのだ。  手術は無事に終わり、ジーナの視力がだんだんと回復していく。初めて見る夫のジェームズの顔は彼女が想像していたイケメンではなかった。これまではすべてジェームズの言うことを聞いていたジーナだが、視力が回復すると自己主張するようになる。オシャレにも目覚め、社交的になっていく。少しずつ夫婦のバランスが崩れていく……。  と、最初にあらすじを読んだとき、結局はルックスよりハートだよ、というベタな愛の物語かと思ったのだが、これが全然違って裏切られた。そして、面白かった。男女がすれ違っていく様子がとても繊細に描かれている。赴任先のタイや旅行で訪れるスペインなどの映像がとても美しい。互いに疑念を募らせていく夫婦の駆け引きはサスペンスさながらだ。  見えるようになると、見なくていいものがたくさん見えて不幸になってしまうこともある。出会い系アプリの加工された美しいプロフィール写真の女性と毎日やりとりを続ける僕たちは、きっと“真実”は見えないままでいたほうがいいんだろう。あえて“出会わない”のが、出会い系の正しい使い方かもしれない。
物理学研究者、投資銀行クオンツ・トレーダー職等を経て、作家・投資家。香港在住。著書に『外資系金融の終わり』『僕は愛を証明しようと思う』『コスパで考える学歴攻略法』などがある

『かごの中の瞳』
配給/キノフィルムズ 監督/マーク・フォースター 出演/ブレイク・ライブリー、ジェイソン・クラークほか 全国公開中
おすすめ記事