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農家の非モテ男と18歳フィリピーナの壮絶な愛の物語/映画『愛しのアイリーン』

~藤沢数希のモテる映画工学『愛しのアイリーン』~

愛しのアイリーン

©2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ

国際結婚した農家の非モテ男と18歳フィリピーナの壮絶な愛の物語


 僕は原作の漫画を読んでいなかったのでタイトルとあらすじを見て、なかなか嫁が来ない日本の農家の息子がフィリピンの貧しい農村から若い嫁をもらってくる、そこには当然金銭が絡む……という社会派ドキュメンタリーか何かの映画かなと思った。貧しさゆえに売られる途上国の娘、そこに愛はあるのか!? みたいなベタなストーリーがすぐに思い浮かんだ。

 原作が連載された’95年は土地バブル崩壊後とはいえ円の価値が高く、日本の一人当たりGDPは世界トップレベルだった。中国を含めアジアの国をすべて足しても日本一国のGDPの足元にも及ばなかったのだ。その後、日本経済は凋落を続け、中国をはじめアジア諸国は著しい経済成長を遂げた。今となってはフィリピンの農村の若くて可愛い女のコが、日本の農家の非モテ男性のところに簡単に嫁いでくることはないかもしれない。上海なんかで中国人の金持ち相手に売春婦をやったり、香港やシンガポールでメイドでもやっているほうが稼げそうだ。

 映画を見て、僕の期待はいい意味で裏切られた。貧しい農村から売られてきたアイリーンはちっとも可哀相な女として描かれていない。彼女も含めて登場人物すべてから、生々しい人間の欲望がほとばしる。日本の村社会の人間が持つ強烈な差別意識。金欲、性欲、そして親子の愛。性欲にのぼせた日本人のおっさんたちからカネを奪い取っていくしたたかなフィリピーナたち。ヤクザも出てくる。

 そして、カネとセックスと暴力が渦巻く怒濤のストーリーは衝撃の結末を迎える。結局、みんな自分がちょっと幸せになるために必死に生きているんだ。

『愛しのアイリーン』
配給/スターサンズ 監督・脚本/吉田恵輔 原作/新井英樹 出演/安田顕、ナッツ・シトイ、河井青葉ほか 9月14日全国公開

【藤沢数希】
理論物理学研究者、外資系金融機関を経て、作家。メルマガ「週刊金融日記」は読者数1万人、ツイッターのフォロワーは14万人を超える。最新刊『損する結婚 儲かる離婚』が発売中





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