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西成は「外国人バックパッカーの街」へと変貌したのか?

 日本最大のドヤ街と呼ばれる大阪市西成区のあいりん地区。昨今では「訪れる外国人観光客が増え、バックパッカーの街へと変貌した」と報道されることも多々。  外国人で賑わうバックパッカーの街といえば、有名なタイのカオサンロードやインドのサダルストリートなどの安宿街を想像する人もいるかもしれないが、『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)を上梓したライターの國友公司氏は「それは少し違いますね」と首をかしげる。  國友氏は、筑波大学在学時にバックパッカーとして東南アジアをまわってきた。その後、就職に失敗し、無職のまま西成のドヤ街に住み込んだ。そして、そこで生活する人たちの様子をうかがってきたというが、外国人観光客の実態とはどのようなものだったのか。
國友公司

就職に失敗し、西成で生活していた國友公司氏

西成は「外国人観光客の街」へと変わったのか?

「外国人観光客の姿はあくまでチラホラ程度。あいりん地区には、インバウンド向けに英語表記を付けるビジネスホテルやドヤもあり、彼らはそこに泊まっています。たしかに、沈没組(長期滞在しているうちに動く気がなくなってしまったバックパッカー)もいますが、報道されているように“旅行者の街”として外国人で賑わっているのかと言えば、そうではありません」  西成がドヤ街と呼ばれるゆえんは、日雇い労働者などに向けた1泊1000円程度で泊まれる簡易宿泊所が立ち並んでいることにある。だが、國友氏によると、ひと言にドヤと言っても、日雇い労働者が中心に住み着いているドヤもあれば、生活保護受給者のみが住んでいる福祉専門のドヤ、その両者が共存しているドヤ、出張サラリーマンが利用するドヤまである。要するに、外国人観光客が泊まれるドヤはほんの一部だというのだ。  國友氏は、西成の飯場(住み込みの寮)で肉体労働をするだけではなく、実際にドヤでスタッフとしても働いていた。そこでは、階によって泊まる人たちのタイプが明確に分けられていたそうだ。 「私が働いていた6階建てのドヤでは、1階から3階までが肉体労働者や生活保護者、4階と5階が出張で来たサラリーマンや日本人観光客、6階のみが外国人観光客と女性でした」
西成

西成のドヤ街(写真提供/國友公司)

 では、西成に来ている外国人観光客はどのような人たちだったのか。いわゆるバックパッカーが訪れるような旅行者の街では、安宿だけではなく、旅行代理店や両替所、安食堂など旅行に必要なものがすべてそろう。旅行者たちはそれを求めてくるわけだが、西成の場合は少し異なるらしい。 「外国人は難波や梅田などのいわゆる観光スポットをまわって、夜になってから寝るためだけに西成に戻ってくる感じですね。だから、昼間はあまり見かけませんでした。中東系のムスリムなどもいましたが、USJとかに遊びに行っていたようです」  彼らは、そもそも西成がどういう背景の街なのかまったく知らない人がほとんどだという。西成には、古くより日雇い労働者や路上生活者が集い、かつては大規模な暴動が起きた。リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件で逮捕された市橋達也が逃走中に潜伏していたことでも知られているが、そんなことは関係ないらしい。 「事件があったことを気にしている様子はない。世界中を回っているようなバックパッカーがいることも事実で、インドや東南アジアの安宿街のような小汚いエリアを経験していれば、西成に路上で立ち小便をしている老人がいようが、フラフラしている得体のしれない人がいようが、まるでお構いなし。私が働いていたドヤでは、毎日2時ぐらいに起きて周辺をランニングしているようなオーストラリア人や、夜になると必ずホテルに日本人の女性を連れ込んでくるようなイタリア人まで……。せんべい布団しかない三畳の部屋で行為をしているのかと思うと、ちょっと引いてしまうぐらい」
ドヤ

ドヤの一室(写真提供/國友公司)

 食事の面ではどうなのか。住み込みで飯場に入っている労働者には弁当やまかないが支給される。それ以外の住人や外国人旅行者は? 「西成の飲食店は安いというイメージがあるかもしれませんが、実際はそうでもありません。定食も600円ぐらいはかかる。だから、西成の人たちはスーパー玉出に通っています。弁当の値段は300円程度。彼らのカラダは、スーパー玉出の弁当で成り立っているのではないかと思ってしまうほど。毎日すごい行列ができるのですが、外国人が並んでいる姿を見たことはほとんどありません。彼らはミネラルウォーターや果物を買うだけで、食事は西成ではなく、やはり観光地で済ませていたようです」
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クリーンに変わろうとするなかで問題は山積み
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ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活
ヤクザ…、指名手配犯…、博打場…、生活保護…、マイナスイメージで語られることが多い、あいりん地区。ここで2カ月半の期間、生活をしてみると、どんな景色が見えてくるのか? 西成の住人と共に働き、笑い、涙した、78日間の体験ルポ。

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