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犯罪少年は完全悪なのか…映画『ギャングース』が描く日本のリアル<対談>

 一向に無くならない振り込め詐欺被害。テレビなどでは高齢者を騙した“悪い顔”の若者たちが逮捕される姿が報じられ、世間を震撼させる。少年犯罪の厳罰化の声も根強い。しかし、彼らは本当に根っからの悪なのか。その問いに一石を投じ、背景とともに裏社会に生きる若者たちの青春を描いた、高杉真宙、加藤諒、渡辺大知ら主演の映画『ギャングース』(11月23日公開)が各業界で話題を呼んでいる。 『ギャングース』が描くリアルな裏社会の実情、日本のリアルとは何か。そこで、映画『ギャングース』の監督を務めた入江悠氏と原作となった漫画のストーリー共同製作者で、ノンフィクション業界では「特殊詐欺犯を日本一取材した」と評されている鈴木大介氏が大いに語り合った。 入江 悠 ●映画監督。自主制作による「SR サイタマノラッパー」で注目を集め、「日々ロック」「22年目の告白―私が殺人犯です―」など次々と話題作を手がける 鈴木大介 ●文筆家。女性や子どもの貧困、犯罪加害者をテーマに取材し「最貧困女子」(朝日新聞出版)や、漫画『ギャングース』のもととなった「家のない少年たち」(太田出版)などを上梓

高杉真宙らも「リアルなもの」を求めてくれた

鈴木大介(以下、鈴木):いやぁ、よくぞここまで裏社会に生きる若者たちの姿をリアルに描いてくれたと思いました。やっぱり生きることに必死になれば、選択肢がなくて10万円、50万円のために売春だって強盗だってしてしまう子たちはいる。そうした主役のサイケ(高杉真宙)、カズキ(加藤諒)、タケオ(渡辺大知)たちのモチベーションもきちんと描いてくれてました。 入江 悠(以下、入江):原作に愛情が注がれているのはわかったので、リアルは大切にしていた部分ですね。主役の3人にも「リアルなものを」と撮影前から言っていて、でも『ギャングース』の脚本を読ませても、心から実感を持ってもらうのは難しい。これ、本当に日本の話ですか? って。でも、クランクイン直前に鈴木さんが撮影所に来てくれて、当事者に取材してきた鈴木さんに直接話してもらうことで「あっ、マジなんだ」って雰囲気になった。 鈴木:あのときは体調が悪い時期で、うちの近くのファミレスまでスタッフに車で迎えに来てもらったんですよ。そのファミレス、16歳で本番援デリしていた少女の取材をした思い出の場所で……そこから3人のいる撮影所にお願いしに向かったんですよ。「どうか俺が見てきたも子たちの存在を無いものにしないでください。ファンタジーにしないでください」って。そしたら、3人が真剣な表情で聞いてくれるから、こっちが緊張して噛みまくりですよ(笑)。高杉真宙くんなんか、身を乗り出してマジ顔で話に食いついてくれて、プロだなあと思うと同時に、これは役者さんたちも本気だぞって。 入江:あの日は本当によかったですね。作品にリアルさが注入された瞬間でした。作品内ではなるべくリアルにこだわる部分はこだわっていて、例えば、少年たちが金庫を盗むシーン。実物大の金庫を用意して、重さとスピード感を再現しました。でも、本当に1回やってみたら、大変で。 鈴木:俺も横で見てましたけど、大変そうでしたね(笑)。取材したとき、彼ら(編集部注*強盗団)は「金庫倒してソリでガーってひいたら、余裕っすよ」とか言ってたけど、リアルにやるとなったらすごい大変なことがわかりましたね。リアルさで言うと、加藤(金子ノブアキ)が詐欺店舗の朝礼で下の若い子たちに檄を飛ばすシーンは、本当にすごかった。僕が取材したリアルを超えていた。 入江:金子さんはミュージシャンだから盛り上げ方がよかったのかな。言葉をラップのように畳みかけて欲しかったので、ワンシーン・ワンカットで撮影しました。 鈴木:あの加藤は格好いいです。 入江:僕は高校男子校だったので……ああいう男になりたい(笑)。 鈴木:振り込め詐欺のコーチをしている人たちは1990年代に流行った催眠商法のマニュアルを参考にしているんですけど、金子さんが演じる加藤はそれをブラッシュアップしてきた。今後の振り込め詐欺研修に使われるんじゃないかってくらい(笑)。この映画の見所のひとつです。 入江:マニアックですね(笑)。でも、僕も今まで知らない世界で。振り込め詐欺をする子たちって、もっと軽い気持ちでやってんのかなと思っていたら、そうじゃなかった。新人教育もあって、その過程の中で、彼らが犯罪に手をそめる。やる気になっていくところを描きたかった。彼らなりの理屈があるから、振り込め詐欺は成立してるんだってわかりました。 鈴木:悪巧みが好き、人を傷つけ貶めるのが好きでやってるんじゃない。経済活動として、彼らなりの正義でやっているというのは、日本の振り込め詐欺のベースなんですよね。詐欺店舗での仕事に没頭する若い子たちっていうのは、努力してもそれが結果に反映されないって諦観の中で、成功のプロセスとか成り上がりの実行者みたいなものを強く求めています。番頭はまさに目に見える成功者像で、詐欺って犯罪を見事に経済活動や成功者への道にすりかえて、若い子たちを洗脳してくる。そしてそのロジックには、老尊若卑な日本へのルサンチマンが込められている。その猛烈なモチベーションを、金子ノブアキさんが見事に再現してくれて、あの部分を見るためだけに劇場に足を運ぶ価値があると思うシーンでした。 <映画『ギャングース』では貧困問題を説明し、高齢者たちがいかにお金を貯め込んでいるか、そのお金を奪って何が悪いのかと熱く語るシーンがある。少年たちを振り込め詐欺犯に仕立て上げていく様がわかるだけでも、同映画は一見の価値があるのかもしれない。> 犯罪少年は完全悪なのか…映画『ギャングース』が描く日本のリアル【対談】
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善と悪に線引きはない
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11月23日(金) TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
©2018「ギャングース」FILM PARTNERS©肥谷圭介・鈴木大介/講談社
配給:キノフィルムズ

ギャングース・ファイル 家のない少年たち

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