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落ちぶれた名家の哀しい正月。本家なのに兄弟からは無視をされ…

 広島県の山間部にある豪農の旧家――。  毎年、この時期であれば庭先で餅をついたり、しめ縄づくりをしたり、正月を迎える準備に明け暮れる……はずなのだが、庭先は荒れ果て、家の中も散らかり放題。とてもフレッシュな気持ちで新年を迎えようという空気は感じられない。豪農旧家の主・湯川さん(仮名・40代)がうなだれる。 「私はこの家の次男。兄と弟は広島市内で暮らしておりますが、彼らは多忙のため、農業も、実家も継ぐことができず、私が帰ってきたわけです。数年前までは、正月になると全員がこの家に集い、わいわい楽しくやっていました。餅つき、しめ縄づくりにおせちづくりもみんなでやっていたんです。もはや、遠い昔の話ですね」 田舎

堕ちた豪農旧家の悲壮な正月

 湯川家は地元で代々続く専業農家だったが、父は10年前に引退。兄は地元の進学校から広島大学に進学し、現在は国家公務員となっている。弟も同じく地元進学校に通い、東京の有名私大を卒業後、外資系コンサル会社を経て独立、現在は広島市内を一望できるタワマンに家族で暮らしている。  湯川さんのみが、その進学校に落ちた。大学も中国地方の三流私大を二留の末にどうにか卒業。広島市内の不動産会社に就職するもすぐに退職。「フラフラしているのなら実家でも継げ」と、兄に無理やり実家を託された……のである。 「一応、実家だから……嫁さんと子ども、そしてほとんどボケている父や母と懸命に正月準備をして、兄弟をもてなしていました。しかし、兄や弟たちは不満だったようで、ここ数年の正月は私に黙って兄の家に集まっているんです。弟の奥さんなんか、兄の家の方を『本家にしましょう』とか『仏壇を移そう』とか言っているらしくて。私の面目は丸つぶれです」

兄弟との圧倒的な格差、本家は無視され…

 また、追い打ちをかけるかのように、湯川さんの息子や子どもまでが「正月は兄の家で過ごしたい」といいだしたのだから、たまったものではない。湯川さんの息子たちは口をそろえて「オジサンの家の方が食事が豪華」「パパよりオジサンたちのほうがお年玉をくれる」と言い放ち、さらにプライドが削り取られる思いなのだ。 「これが兄や弟と私の“差”かと思いました。そりゃ二人はずっと頑張ってきたし、私はフラフラしてただけ。でも、きちんと実家を継いで、なんとか家を守ろうとしていたのに、兄たちの仕打ちはひどすぎる」 正月 というわけで、数年前から正月の準備をやらなくなった湯川家。庭は荒れ、散らかり放題の部屋で、湯川さんは例年通り、寝正月を過ごそうと考えている。兄宅での正月を楽しみにしている妻と息子を尻目に、湯川さんの気はすさむばかりだ。 「実は父親も母親も病気で、すでに来年一年持つかという状況です。農業の方もパッとせず、今は何とかトントンという状況ですが、兄や弟から田畑はすべて売って、兄弟で三等分すべきとの話も出ています。家に寄り付かなくなっただけでなく、この思い出の詰まった家でさえ解体し、土地を売り払えと……」  楽しかった正月、そして実家の思い出は遠くなりにけり。現実の悲惨な正月を目前に控え、湯川さんは過去をエサに、安酒を舐めることしかできないのである。<取材・文/森原ドンタコス>
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