他人への異常なイライラは発達障害が原因だった――光武克の「発達障害BARにようこそ」
光武「紆余曲折を経て、こうした時期に僕は発達障害の診断を受けたのですけど、生きづらさの原因がある程度見えてくると、今まで点と点でつながっていなかったものが、ようやくつながりだしたんです。するとね、自然と笑えるようになったんですよ。30過ぎでようやくって感じなんですけどね。」
荒木「………」
光武「するとね、周りに助けてくれる人がいっぱいいることに気づけたんですよ。笑っていたほうがそういう人たちが手を貸してくれるんです」
荒木「そういうものなんですね」
光武「あくまで僕の体験なので、それを荒木さんに当てはめて、僕の意見を押し付けるつもりは毛頭ないです。でも、僕は笑うことで救われたんです。笑っていたほうが失敗しても許してもらいやすい。人が失敗してもニコニコ怒らないで、問題点だけ解決すればいい。そういうスタンスで仕事をするようにしたら、世界が一変しました。」
荒木「私も変われますか?」
光武「無理に変わる必要はないと思うんです。でも、笑うスキルは身に着けていて損はないと思います。その意味で荒木さんもきっと大丈夫だと思いますよ。少なくとも僕は笑うスキルで状況が一変しました。それ以降、無理をしても笑うようにしているんです。どんなにイライラすることがあってもニコニコしている。その結果、周りもニコニコする人が増える。そうやってニコニコが伝播していけば、イライラすることも減るはずなんですね」
荒木「………」
光武「とげとげしていると、どうしても相手もこちらに攻撃的になってしまいます。自分の身を守るための笑いとでも言いますかね」
荒木「そういわれてみれば、入社当初の頃は笑顔が素敵ですね、と言われることも多かったです。ミスをしても色々な人がフォローしてくれていました。障害だと診断を受け、余裕がなくなって、笑えなくなっていった気がします」
光武「そうだったんですね」
荒木「周りともぎくしゃくし始めて、一層私の顔から笑顔が消えていたのかな……」
そう呟く彼女から来店当初のこわばった表情がすとんと抜け落ちていました。代わってやわらかい穏やかな表情が少し戻ってきていたように思います。
光武「荒木さんは最初から笑えたんですね。とてもいい顔だと思いますよ」
僕の言葉にちょっと照れ臭そうに荒木さんはしていました。
荒木「光武さん、ありがとうございます。私、職場でも笑ってみますね!」
彼女がニコニコと笑いだすだけで、周りの空気が一変したように僕は感じました。
「おーーい、光武さん。アイスコーヒー!」
「あっ今行きまーす!」
別のお客様からオーダーが入りました。今日もブラッツは大盛況です。
本日もご来店まことにありがとうございました。またのご来店をお待ちしております。
*お客側の登場人物はプライバシーの問題から情報を脚色して掲載しています。
<文/光武克 構成/姫野桂 撮影/渡辺秀之>(みつたけ・すぐる) 発達障害バー「The BRATs(ブラッツ)」のマスター。昼間は予備校のフリー講師として働く傍ら、‘17年、高田馬場に同店をオープン。’18年6月からは渋谷に移転して営業中。発達障害に関する講演やトークショーにも出演する。店舗HP(brats.shopinfo.jp) ツイッターアカウント「@bar_brats」
※ユーチューブチャンネル「ぽんこつニュース」でも光武さんが発達障害バーの日々を配信中
『発達障害グレーゾーン』 徹底した当事者取材! 発達障害“ブーム"の裏で生まれる「グレーゾーン」に迫る |
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