山根さんは新人の携帯に何度も電話をした。ところが留守電の案内が流れるだけ。人事に掛け合い実家に連絡を入れてもらったが、実家にもつながらなかった。そこで、履歴書に記載されていた自宅に行ってみることに。 「そこはシェアハウスで、多くの若者がいました。だが、肝心の彼の姿が無い。そこで住人に聞いてみると、GW明け直前に突然家を出たそうです。なんでも世界一周に行くと言い残し、元気に旅立ったようで。荷物も処分したらしく、まったく残っていませんでした」 　事件や事故に巻き込まれたわけではなかったことに安堵した山根さんだが、会社に一言も言わずにフェードアウトした新人に、後から猛烈に怒りが湧き上がった。 「辞めるなら辞めると言えばいいのに。バックレる若い子が多いとは聞いていたけど、ウチの現場社員の中では、今までそんなことをする子はいなかった。だから本当に心配したんですよ」 　怒りは採用した人事に向かった。「なぜそんな無礼な子を見抜けないのか！」と。だが人事は「現場の指導が悪いんじゃないの」と、逆に山根さんを責めた。 「確かに現場の離職率は高いのは事実だから、何も言えませんでした。けど、このままじゃダメだと思い、今年から最終面接に面接官として臨むことになりました。今年こそ、辞める新人君がいないことを願います。いや、辞めるのは仕方ないかもしれないけど、バックレをしない子が欲しい。しっかりと見極めたいと思います」 　いつの時代も「すぐに辞める若者」は一定数存在する。だが、新人を心から気遣い、長く続いてほしいと願う上司がいることも考えるべき。辞める場合は、速やかに連絡を。＜取材・文／夏目かをる＞ ― シリーズ・モンスター新入社員録 ―
コラムニスト、作家。2万人のワーキングウーマン取材をもとに恋愛＆婚活＆結婚をテーマに執筆。難病克服後に医療ライターとしても活動。ブログ「恋するブログ☆～恋、のような気分で♪」