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「了解しました」は本当に失礼?根拠なきマナーで社会のイライラが増す/鴻上尚史

「了解しました」は目上の人に失礼、という根拠なきマナー

 劇団の新人に何度か「かしこまりました」と返信されて、劇団ってのは、演劇をやる場所で、つまりは、言葉に対して敏感にならないといけない所なんだからと、ツイッターに「新人達がみんながみんな、『かしこまりました』とLINEやメールで返してくる。これを礼儀だと嘘をつき、定着させた大人達に心底、文句を言いたい。 了解しました『分かりました』『了解しました』でいい。『かしこまりました』と音声化したらすぐに、過剰な待遇だと気付く。商売マナーを広めた側の罪は深い」とつぶやきました。  そしたら、「目上の人に『了解です』は失礼なことぐらい、作家なのに知らないのか」とか「私は秘書検定とマナー検定を持っていますが、教科書に失礼だと書いていました」とか、「了解は分からせるという意味だから、目上には失礼なんだ」とかさっそくバズりました。  本当に『了解』は目上に失礼なのか? その根拠はなんなんだ? と、ネットのマナー講座を調べてみました。多くのマナー講座は「『了解です』『了解しました』は、目上の人に失礼です」とだけ書かれていて、理由は説明していませんでした。  中には、「『了解です』を失礼だと感じる目上の人が多いので、これは使わないように」と書かれているものもありました。  でもね、これは理由になってないよね。だって、マナー講座が「『了解です』は失礼だ」と言っているから、失礼だと感じるようになるわけです。「みんながこれは汚いと言っているから、これは汚い」は、同語反復で、理由にはなりません。  で、広辞苑によれば、「了解」は「さとること。会得すること。また、理解して認めること」です。  大辞林では「事情を思いやって納得すること。理解すること。飲み込むこと」です。このどこに、「目上の人に失礼だ」という含意があるのでしょうか? 「かしこまりました」を連発すればするほど、相手との距離を感じます。  マナー講座が「相手との距離を作り自分を守る方法」を目指すのなら、文句はありません。でも、「相手をもてなし、好感度を上げる」のが目的なら、間逆をしているのです。  ツイッターでは「コミュ障の私は、敬語がうまい。敬語はプロトコルで防御するためのもの」と書いている人がいました。的確な表現だと唸りました。
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この国の不寛容とイライラが増していく
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この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

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