更新日:2023年03月20日 11:15
ライフ

「了解しました」は本当に失礼?根拠なきマナーで社会のイライラが増す/鴻上尚史

この国の不寛容とイライラが増していく

 マナー商売の人達は、マナーを教えて、「へえ、そうなんだ」と思われてないと、商売にはならないわけです。けれど、毎回「これ知らないでしょう。でも、大切なんですよ」なんてことは生み出せないわけです。  そうすると「部下のハンコは斜め45度で押す」だの「とっくりのお酌は、反対側から注ぐ」だの、「それ、いくらなんでも無理ありすぎないか?」というものも登場します。 ハンコ で、こういうのは、受け取る側もある程度の知性があると「それはおかしい」と判断できるわけです。  でも、「了解」は目上の人に失礼なんて、「国語とか歴史からそうなの?」みたいものは、だまされる人が多いのだと思うのです。  僕がものすごく不思議なのは、「了解しました」が目上の人に失礼だという、僕なんかが感じられないぐらい繊細な感覚を持っているマナー講座の人が、「かしこまりました」という言葉を書いたり、口にした時の、その大仰さに違和感を感じない、ということなのです。  ネットでは、いったいいつから「了解しました」が目上の人に失礼だと言われるようになったのかを検証した記事もありました。始まりは、マナー講師と呼ばれる人が書いた一冊の本でした。  また、辞書を編纂している人の「了解いたしました」は少しも目上の人に失礼じゃない、と丁寧に説明している記事もネットにありました。 「了解しました」「承知しました」「かしこまりました」の順番で、待遇表現は、レベルが上がります。  本当のマナー講座とは、この三つを(「了解です」は一番下位にきます)を、どう使い分けるかを教えることで、一律に「了解です」は失礼、「かしこまりました」がいいと機械的に教えることではないと思うのです。  根拠のないマナーが増えていくたびに、この国の不寛容とイライラは増していくように感じます。黒のリクルートスーツの増大も根は同じだと思うのです。
ドン・キホーテ 笑う! (ドン・キホーテのピアス19)

『週刊SPA!』(扶桑社)好評連載コラムの待望の単行本化 第19弾!2018年1月2・9日合併号〜2020年5月26日号まで、全96本。
1
2

この世界はあなたが思うよりはるかに広い

本連載をまとめた「ドン・キホーテのピアス」第17巻。鴻上による、この国のゆるやかな、でも確実な変化の記録

おすすめ記事