地名と発祥が違っても愛される食べ物は多い
しかし、店が掲げる地名と発祥が違っても何も言われず、愛されている食べ物は存在する。
「名古屋名物の味噌カツや天むすは、実は三重県発祥のもの(※)。“大阪伝統”の味と謳っている『串カツ田中』の1号店は、東京都世田谷区です。しかし同店には、本物の味へのリスペクトが感じられる。そして台湾ラーメン。これも台湾にはないもので、名古屋の『味仙』の店主が台湾の担仔麺をヒントに改良を重ねたもの。これも特に台湾人から批判されたという話は聞きません」(グルメライターB氏)

大阪伝統の味を掲げるも「串カツ田中」の発祥は東京・世田谷
※「名古屋名物」と言われる味噌カツの発祥は、三重県津市にある「カインドコックの家 カトレア」。天むすも、同じく津市の「千寿」という料理店の賄い料理として考え出されたものだとされる
表示義務がないために、正しい情報が伝わらないケースも多い。ある漁港で食品加工業を営むC氏はこう語る。
「魚の場合、外国産がいつのまにか国産になっているというのは日常茶飯事。例えばウナギの表示義務は養殖地のみで、種名は義務ではないんです。ヨーロッパウナギの稚魚を日本のいけすに入れて養殖すれば『国産』となります。近年、ニホンウナギが減少し、ヨーロッパウナギの稚魚が大量に入ってきています。中には、北米産やインド洋産の稚魚も」

国産ウナギに関しても、現状では稚魚がどこで獲れたかはわからない
また、回転寿司業界に詳しい仲卸業者のD氏は「寿司ネタでも、魚種が違うなんていうことはザラにある」と証言する。
「マグロはアロツナスやサバ科のガストロ、ブリはシルバーワレフ、タイはナイルテラピアやアメリカナマズ……という具合です。イクラに関しては、人工イクラがほとんど。現状では、表示ルールの整備が進んでいないため、“言ったもん勝ち”になっています」
これらは偽装に近く、完全にグレーゾーンだ。
一方、沖縄の「アグーブランド豚」は、明確なブランドの基準があるにもかかわらず、類似ブランドが増え続けているという。
「希少種の『沖縄アグー豚』は一時期二十数頭まで減ってしまい、保護活動とともにブランド豚としての普及のため、『アグーブランド豚』の登録制度が始まったのです。その基準は『沖縄アグー豚』と証明された雄と、各指定生産農場所有の西洋豚などの雌を交配したもの。父親がアグー豚であれば、母親は何を掛け合わせようと自由。アグー豚の雌は生産能力が低く、量産するには他の豚のほうが適しているんです。現在、アグーブランドは12種類となっています」(沖縄県農林水産部畜産課)

アグーブランド豚は、掛け合わせで今や12種類も存在する
その結果、さまざまなアグーブランド豚が生まれ、沖縄だけでなく全国に流通するようになっていった。ここには、何とか絶滅寸前のアグー豚を救いたいとの“地元愛”が感じられる。
ブランドの基準があいまいだったり、抜け道があったりというのは、どの分野でもあるケースだ。そのブランド名を冠した食品が受け入れられるかどうかは、食品への愛情や、地域の歴史や食文化へのリスペクトがあるかどうかに収斂されると言えそうだ。
<取材・文/神田桂一>
※週刊SPA!10月8日発売号「食のブランディング戦争」特集より