第546回 11月9日「走る孤独死」
―[渡辺浩弐の日々是コージ中]―
・高齢ドライバー問題について。「70歳一律免許返納」といった提案に現実性はなさそうだ。だとしたら彼らは、死ぬまで運転することになるのだろうか。最期はきっと誰かを巻き添えにしつつ……。
・というのは極端な話だけど、この問題の解決に向かう道は限られている。政府も自動車業界もわかってて言わないことだ。自動運転の規制緩和~実用化推進である。
・AIによる自動運転は、技術的にはかなりの段階まで進んでいて、無人運転もほぼ可能な段階に達している。現在、立ちはだかっている壁は技術ではなく法律なのだ。
・完全な無人運転が実現した時、例えば事故の際に責任を誰が取るのか、保険の適応はどうするのか、など、着地点が保留されている事項がとても多い。運転手の仕事を奪うことについて補償はどうするかという問題もある。
・自動運転について差し迫った必要性を喧伝しておかないと、規制緩和しようとするたびにネガティブな論議が百出する。そこで最も有効な大義名分が、高齢ドライバー問題である。保険が難しくなるとか運転手が失業するとか言ってる場合ではない…と、毎日のように高齢者事故のニュースを見せられているうちにそんな気になってくるわけだ。
・自動運転はレベル0からレベル5までに定義づけされている。
……レベル0からレベル2まではシステムがステアリングやスピード調整をサポートするのみで、あくまでも人間の運転手メインの段階。
……レベル3ではシステムが特定の場所で全ての操作をする。ただし人間が運転席にいる前提で、緊急時には対応を迫られる段階。
……レベル4では特定の場所で全ての操作を行い緊急時の対応もこなす。
……レベル5は場所の限定なく全ての操作をシステムが行う。渋滞、信号、車間距離など周囲の状況を認識しながら的確にスピードを調整し、目的地までハンドルを操作する。この段階では運転手が完全に不要となる。いやそれどころか、人間を一人も乗せずに走らせることも可能になるわけだ。
・レベル5に至ると各メーカーはハンドルやアクセルがないクルマを製造できる。これは非常に重要なことだ。運転免許のない人にもクルマを売ることができるようになる。巨大なマーケットが出現するわけである。
・ただし現在のところ市場投入されている自動車はまだレベル3まで。日本ではレベル2、つまりあくまでも人間による運転をサポートするところまでしか許されていない。メーカーも、そしてメーカーをクライアントに持つマスコミ各社も、うずうずしている状況だろう。ここで高齢ドライバー問題への対策待ったなしの状況が強調されることが、法整備と規制緩和を後押しする最大のパワーとなる。高齢者に対して運転を禁止するより、レベル3やレベル4のクルマの使用を義務づける方が現実的だからだ。
・そうなれば、レベル5の解禁も、すぐに実現する。「寿命が尽きるまで運転する」という気概のドライバーが不調に見舞われた時、多くの老人が運転しながら自然死するようになる。その死は他人に迷惑をかけることがない。AIがその後も安全走行を続けてくれるからだ。それが結果的に、公道を合法的に無人カーが走っている状態となる。つまりその時レベル5も、なしくずし的に解禁されているわけだ。
・近い将来、電気自動車の給電は非接触式となり、走行しながら自動的に行われるようになる。つまり死体だけを乗せ永遠に走り続けるゴーストカーが公道上にどんどん増えていくことになる。
作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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