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第547回 11月12日「ショートショートの居場所は」

・『IHI技報』という技術系広報誌にショートショート小説を寄稿した。IHI (昔は石川島播磨という名前でしたね)は船舶、陸上機械、橋梁、プラント、航空エンジンといった巨大ハードウェア製造の世界企業だ。ここが取り組んでいる最先端技術をテーマにした近未来小説を書いた。 ※ネットでもPDFで公開されています。 →『そして船から船へ』『ウィークデイ』 ・『IHI技報』はバックナンバーもネットに上がっている。「AI(深層学習)活用によるロボットの高性能化」「水中浮遊式海流発電システム」「電気自動車用の非接触給電システム」「3Dプリンターを使ったロケットエンジン部品の製造方法」……こんな感じの論文が掲載されていて、SF作家としてはネタの宝庫だ。 ・ただしそもそもは産業界向けに研究開発の成果を公表するための刊行物だから通常号の作りは学術誌に近い。今回、創刊80周年を記念して一般向けの記事も載せようということになったらしい。 →『IHI技法創刊80周年記念号』 ・この号には「老舗温泉旅館での地熱発電プロジェクト」「ハイテクノロジーを活用した清酒のメイキング」……といった、一般読者も興味深く読める企画が並んでいる。その一つとしてSFショートショートを選んでもらえたことはうれしかった。実のところ僕は企業のPR誌にショートショートを書きたいと思っていたのだ。星新一さんのことを知っていたから。 ・星さんは1960年~70年頃、ソニーや九州電力といった企業のPR誌に膨大な数のショートショートを書いている。『星新一 一〇〇一話をつくった人』(最相葉月/新潮社)という本の中には、小林信彦さんの「ショートショートは企業PR誌が支えたんです。PR誌がなければ、星さんの1001編はなかったかもしれない」というコメントが引用されている。 ・前にも少し書いたが、東京オリンピック(1964年)から大阪万博(1970年)に至るこの時代は、日本のSFの勃興期だった。企業がこぞって未来を先取りしようとする時代である。特に、短い言葉で未来の風景を具現化して提示するショートショートはPR誌に向いていた。現実の最前線を踏まえてその先をシミュレーションする作業は、書く側にとっても大きなメリットになったはずだ。 ・昨今ショートショートを書く人が少なくなっている。本が売れなくなったことより、文芸誌や週刊誌が少なくなったことより、PR誌に小説が載らなくなったことの方が大きな理由だと思う。「PR誌だって少なくなっているだろう」と言われそうだが、このジャンルについては紙メディアが減ったぶんウェップサイトが増えているのだ。 ・そして東京オリンピックから大阪万博への流れは、現在にオーバーラップするわけである。今再び、SFが頑張らなくてはならない時代だ(そしてPR誌や企業サイトの編集者の皆さん、小説にも目を向けてください!)。 作家。小説のほかマンガ、アニメ、ゲームの原作を手がける。著作に『アンドロメディア』『プラトニックチェーン』『iKILL(ィキル)』等。ゲーム制作会社GTV代表取締役。早稲田大学講師。
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