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締め切り直前に駆け込んだサイゼリヤで、耳に飛び込んできた衝撃――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第70話>

もう懲役言いたいだけだろ

 「それでさ、私が懲役にいっていたときにさ」  苦悶する僕とは無関係にイカリタトゥーは話を続ける。また懲役とか強い言葉を使っている。そしてそれを聞きながらある事実に気が付いてしまった。 (もしかしてイカリタトゥーって全てのエピソードを懲役に絡めていない?)  話を聞いている限り、どんなエピソードになろうとも、かならず懲役に行っていたときの話に収束する。ほんとうに懲役の話で終わる。全てがそんな感じなのだ。 「どうして朝起きられないのか?」  ヤサ男がそんな話題を切り出した。おそらく、夜通し働くタイプのバイトをやっている二人なので生活リズムが大きく崩れ、なかなか朝起きられないのだと思う。  「目覚ましを強力なものにしても全然ダメで、それで枕が振動するタイプの……」  みたいなことをヤサ男が話しているのに、イカリタトゥーはそこに強引にカットインしてくる。 「私もさ、懲役にいってたときは大人数で寝ていたわけじゃん。だから一人になってしまうと全然眠れないんだよね。だから不眠症みたいになっちゃって朝起きられない。なにせ懲役にいってたから」  これはまだわかる。これはまだわかるんだ。話の流れとしても自然だし。まあ理解できる。懲役が入ってくるのもわかる。けれども、 「活動限界まであと20分です!」  うるせえ! 黙ってろ! いまイカリタトゥーの懲役の話してるんだ。すっこんでろ!  ごめんごめん、ちょっと邪魔が入って。どこまで話したっけ、ああ、懲役ね。イカリタトゥーのやつ、本当になんでも懲役時代のエピソードに持っていくのだ。  話題が、最近流行のタピオカドリンクにおよんだ時だった。  「タピオカドリンク、飲んだ?」  ヤサ男がそうと尋ねて、話を切り出した。なんだかタピオカドリンクに関する捧腹絶倒のエピソードを隠し持っていそうな感じだ。ちょっと期待した。なのに、イカリタトゥーがまたカットインして強引に話題をかっさらっていく。  「そういえばさ、わたしが懲役にいってたときにさ、同室に滝岡ってやついたんだよね。そいつのことタピオカってみんなで呼んでたな、ウケる」  もう懲役関係ねえじゃん。本当に懲役関係ないじゃん。滝岡のことだけでよくない? 「活動限界まであと10分!」  他にも、話題がUSJにオープンするらしい新エリアの話題におよぶと、完全にヤサ男には喋らせないといった感じで強引に会話をかっさらっていく。 「私が懲役にいってたときさ、すごくUSJ行きたかったんだよね」  もうお前、懲役って言いたいだけだろ。
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グローブ男の優しさに心洗われ……
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pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

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