更新日:2023年04月27日 10:46
ライフ

締め切り直前に駆け込んだサイゼリヤで、耳に飛び込んできた衝撃――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第70話>

可能性その1:一目惚れから始まる恋

 例えば一目惚れだ。  私鉄の終着駅を多くの人が忙しなく歩いていた。夕暮れはどこか寂しげで、それでいて情熱的で、ここから先は夜になると一方的に宣言されているようでもあった。  まるで空にひかれた境界線のようなその赤い光が雲の切れ間からあふれ出ており、境界線のようになっていた。もしかしたらあの向こうは違う世界なのかもしれない、そう思えるほどに。  夕日は一軒家の屋根に置かれたソーラーパネルの黒色すらも赤く染めていた。  「きた」  気だるそうに自動改札を抜けるギャルの姿が見えた。武志はこのギャルを持っていたのだ。こうやって勝手に彼女を待って3日目になる。 「こういうのストーカーっていうのかな」  そう呟いて3度、首を横に振った。「これはストーカーではない。恋なんだ」  いつもあのイカリのタトゥーを見て声をかけることもできず後ろ姿を見送るだけだった。今日こそは勇気を振り絞って声をかけると決めていた。彼女はゴリゴリのギャルだ。イカリのタトゥーも入っている。そんな彼女と僕が釣り合うだろうか。  それでも、それでも、ギュッと拳を握る。ギュワっと革が軋む音がした。その音が彼女に届いたのかもしれないと思うと急に心拍数が上がった。いくしかない。  「あのっ……」  夕日が後押しをしてくれたように感じた。  「なに?」  彼女は少しイラついた様子で振り向いた。これから何かが始まるような気がした。ふと空を見上げると、あの夕日が作る境界線が消えうせていて、そこには綺麗な星空が見えていた。それはいつも見るそれよりも少しだけ強く輝いているように思えた。  こういう感じだろうか。いいや、さすがにこれはないか。もっと現実的な線で攻めなければだめだ。
次のページ right-delta
可能性その2:ネトゲから飛び出してきた君は
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


記事一覧へ
pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――

おすすめ記事