更新日:2023年04月27日 10:46
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締め切り直前に駆け込んだサイゼリヤで、耳に飛び込んできた衝撃――patoの「おっさんは二度死ぬ」<第70話>

可能性その2:ネトゲから飛び出してきた君は

 例えばネットでの出会い。  ネットゲームの世界では僕は可憐な少女だ。エミリアを操る僕は女王のようにふるまっていた。  ギルドのメンバーは全員、エミリアに惚れていてやれレア装備だとか貴重な鉱石だとかをくれる。ひとたび冒険にでれば難易度の高いクエストだって手伝ってくれる。  そんな中、ゴリアスという戦士キャラだけはエミリアになびかなかった。それが気に食わなかった。  「これだから脳筋キャラは……」  現実世界で呟く口調すらもエミリアになっていた。なんとかしてゴリアスをなびかせたい。いつのまにかそう考える自分がいた。  いや、そう考えるエミリアがいた。だから、いろいろとモーションをかけてみた。けれども、ゴリアスはなびかなかった。  そんなおり、プライベートチャットでゴリアスからメッセージが来る。近いうちに会えませんかと。ついになびいた。そう思った。  いつの間にか拳を強く握っており、ギュギュっと革が軋む音がした。ゴリアスに会ってみたい。どんな男なのか。ただし、エミリアの中身が男だとばれてはいけない。ばれてしまえばそれでこの王国が終わってしまう。  けれども、ゴリアスのことが気になってしかたがなかった。気づいたら梅田のサイゼリヤで会いましょうと返事をしていた。さすがのゴリアスも驚くかな。エミリアの中身が男だって知ったら。それにしてもゴリアスはどんな男なんだろう。キャラのとおり少し筋肉質で色黒で、ツーブロックで、そう考えてサイゼリヤで待つ。  そうすると目の前に女性が現れた。胸のところにイカリのタトゥーが入ったギャルっぽい女性だ。  「ゴリアスです」  彼女はそういった。  「エミリアです」  そういった。そうして二人はばつが悪そうに笑い合った。なんだかこのサイゼリヤから僕たちの新しい冒険が始まるのかも、よくわからないけどそんな気がした。
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捗る妄想、減りゆく充電、迫る締め切り
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テキストサイト管理人。初代管理サイト「Numeri」で発表した悪質業者や援助交際女子高生と対峙する「対決シリーズ」が話題となり、以降さまざまな媒体に寄稿。発表する記事のほとんどで伝説的バズを生み出す。本連載と同名の処女作「おっさんは二度死ぬ」(扶桑社刊)が発売中。3月28日に、自身の文章術を綴った「文章で伝えるときにいちばん大切なものは、感情である 読みたくなる文章の書き方29の掟(アスコム)」が発売。twitter(@pato_numeri

pato「おっさんは二度死ぬ」

“全てのおっさんは、いつか二度死ぬ。それは避けようのないことだ"――


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