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宮台真司「大人のイジメ」を加速させる現代社会の闇を解説

 “大人のイジメ”は今、改めて大きな社会問題となっている。その背景と実態に潜む人間の闇に迫った! 大人のイジメ地獄

現代特有の無力感や劣等感を埋めようといじめは残虐化する

’19年10月に神戸市立東須磨小学校で発覚した教師間のトラブルは、世の中に衝撃を与えた。大の大人が陰湿な嫌がらせ行為を繰り返すさまは、まさに「大人のイジメ」と言っても過言ではない事態だった。 「大人のイジメはなくなりません。むしろ、残虐性が増す環境が醸成されています」と断言するのは、社会学者の宮台真司氏だ。その背景について次のように解説する。 「日本社会は’70~’90年代にかけて、地域社会の崩壊と、家族の空洞化が進行します。それで“世間”が失われ、自分と普段の友人以外はただの“風景”だという感覚がすり込まれたのです。その象徴が、電車内での化粧や、街頭での地べた座りでした」
社会学者・宮台真司氏

社会学者・宮台真司氏

 もともと日本人は、学校や会社など集団でのポジション取りで自尊心を保ってきた。ところが“世間”が消え、友人も知り合い以上の関係ではなくなって、“個”が剝き出しになった結果、“常に大きな不安を抱えながら生きている”のが、昨今の状況なのだという。

他人の尊厳を奪って自尊心を保つ現代人の闇

 急速に劣化した日本社会で進行したのが“個人のクズ化”と“社会のクソ化”だ。  個人のクズ化の最たる例が、よく耳にする「反日バッシング」や「不倫バッシング」。よく考えもせずに言葉に反射的に飛びつき、自動機械のように反応してしまう。こうした行為こそが、“大人のイジメ”の温床を生むのだという。いったいどういうことなのか? 「個人のクズ化、つまり自動機械化は、“個”が剝き出しになった不安の埋め合わせです。彼らは、自分ではどうしようもない無力感や劣等感を抱えています。こうした不安は必ず同調圧力を強めます。その結果、集団内で異分子となる標的を見つけ、尊厳を奪うことで得られる“コントロール感”で、脆弱な自尊心を保ちたがるのです」  組織の中で浮いた人や生意気な人を集団でいじめるのは、自尊心を取り戻すため。本来なら、ここで大人になればなるほど、陰湿な行為にストップがかかるものだ。  しかし、逆に昨今の“大人のイジメ”は、暴走が加速しているように思える。そこにあるのが第二の要素である“社会のクソ化”だ。 「先に述べたように、日本では地域社会の崩壊と、家族の空洞化で、共同身体性(幼年期の外遊びなどで同じ身体的な営みをすることで得られる人と繫がっている感覚)が失われました。その結果、いじめられたらどんな感情や痛みが伴うのかという共通感覚がマヒして、共通感覚に支えられた言葉の共通前提も持てなくなりました。  つまり、いじめの暴走に歯止めをかける役割を担う社会的メカニズムが、急速に崩壊しつつあるわけです」  暴力性や残忍性がエスカレートし、もはや歯止めの利かなくなった“大人のイジメ”。集団で無感情にターゲットを追い込む点では、パワハラよりも陰湿だ。“大人のイジメ”は現代人が抱えた大きな底の見えない闇なのかもしれない。

<大人のイジメを生む背景>

1.不安を埋めようと同調圧力が強まる 2.集団で異分子に狙いを定め尊厳を奪う 3.感覚がマヒした大人が集団内で暴走 【社会学者・宮台真司氏】 首都大学東京都市教養学部人文・社会系教授。評論家。公共政策プラットフォーム研究評議員。著書に『社会という荒野を生きる。』(ベスト新書)など <取材・文/週刊SPA!編集部> ※週刊SPA!12月17日発売号の特集「大人のイジメ地獄」より

週刊SPA!12/24号(12/17発売)

表紙の人/ 飯豊まりえ

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