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カルロス・ゴーン徹底糾弾からわかる日本の鎖国根性/鈴木涼美

1月8日に日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が中東レバノンの首都ベイルートで記者会見を開催したが、ほとんどの日本メディアが排除された。その後、10日に日本メディアのインタビューを受けたが、小学館とNHK記者のみの出席で、民放各局の質問は、事前にゴーン被告側に提出し、担当者が読み上げた
カルロス・ゴーン

写真/時事通信社

Once upon a time in Nippon/鈴木涼美

 パリの空港でフランス人と思しき高齢の男性にWeChat(微信)の使い方を聞かれたので、「私もわかんないからGoogleで調べてあげようか?」と答えたら、「中国人全員が使っているわけではないのか?」と驚かれた。黄色い肌で各国をうろつくと中国系と思われることは多く、私は「中国人じゃないよ、でも漢字は使うしアイラブチャイニーズフード」と他国で地道にアジアの友好をアピールすることにしている。  じゃあどこから来たのと聞かれたから「日本人で東京から来たよ」と答えたら、仏国紳士はやや慌てつつ「そうなのか!? じゃあ君はカルロス・ゴーンのことでさぞfuriousだろうね、日本人はあの脱走に激怒していると聞くよ」と、怯えたジェスチャーをつけつつ弁明していた。  彼の真意はともかく、確かに帰ってテレビをつけると、人気芸人が「長く日本にいて日本語を一切覚えない」と愛日精神の欠如を指摘したり、別の芸人が「クリスマスも一人にされてひどいとか女子大生が言いそう」とレバノン逃亡後のゴーン氏会見の内容を批判していたり、日本がゴーン氏にfuriousであることはどうやら明らかだ。  ゴーン氏の記者会見は多くの日本メディアを締め出した割には逮捕に関する確信をつく内容に欠け、クリスマスに関しては日本はキリスト教文化ではないし日産社員だって働いてるのでは、とは私も思う。  しかし逮捕の妥当性や勾留期間の長さなども含めた、ゴーン氏も指摘する日本の司法制度や、保釈中の被告の逃亡を許した出入国管理、日産クーデター説など多くの論点を孕む本件に関して、少なくともテレビメディアの批判は、逃亡したゴーン氏に集中した。  思いのほか盛り上がっていないのは、森法相の「無罪を証明するべき」、安倍首相の「日産のなかで片付けてもらいたかった」という発言のほうだ。森法相は後に発言を訂正したものの、二人の発言を総合すると、ゴーン排除は日産内でやってほしかったけど無理そうで、このままだと大事な日産がルノーに取られちゃうから、政府が関与して逮捕してあげたよ、でも違法出国なんてしなければ無罪にしてあげたのに、と解釈されておかしくない。  ただでさえ、レイプ問題で逮捕状がもみ消されたと疑惑を持たれている日本の検察と政府の蜜月が国際的にアピールされ、ゴーン氏による日本の刑事司法やばい説をも裏付ける結果となった。国際エリートは、リスクを冒すだけの経済の利がある中国ならまだしも、経済低迷なうえに司法が怪しい国にはいよいよ来ないだろう。  マスコミによるゴーン氏糾弾に乗る大衆に、そもそも日本を代表する企業のトップは黒髪黄色肌で赤パスポートの人がいい、などの心理があるのか証明は難しい。ただ、時を同じくしてマフィア風衣装がお好きな副総理は「日本は2000年にわたって一つの民族」とファンタスティックな歴史観を披露、自身の失言の歴史にまた新たな一説を加えた。  黒船来航から160年余、考えてみるとまだまだ鎖国していた期間に及ばない。この国が今でも基本的には異物を入れずに閉じていたいと思うなら、ある意味で思惑通りの未来には近づいたかもしれない。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!1月21日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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