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五輪後の都市運営を誰に任せるかで東京の今後は決まると憂える新年/鈴木涼美

東京都の小池百合子知事は’19年12月24日、’20年7月に迫った東京五輪・パラリンピックについて「準備すべきことはかなり順調だ」と語った。’20年の漢字一字として「五」を挙げたが、五輪後の東京の都市運営には不安も大きい 小池百合子知事

ネグれないのは君のせい/鈴木涼美

 売り上げや時給で露骨に自分の値段を知らされるキャバ嬢は、客に指名替えなどされた日には、ただでさえ削られがちな自尊心が世紀末的な悲鳴を上げる。価値が多角的な女性は男性に比べてそういった自尊心クライシスを乗り越える術が比較的巧みだが、乗り越え方にはその人間の思慮深さや賢さが如実に表れるものだ。  若干年増の先輩が、7歳下の新人に常連客の指名を取られて「小男だから、何も知らないバカな女に逃げた」と分析していたりすると、単にお金に煩く尊大な年増より新人のほうが魅力的だったのだと知る周囲は、見当違いな見解で自己防衛する姿は滑稽でパセティックなのだと学ぶ。  東京五輪のマラソン会場が札幌に変更された時の小池都知事の反応は、そういう意味で滑稽でパセティックだった。都民の一部を落胆させたその「合意なき決定」について、IOCの手続きの不備や独断的な態度を上からユリコな態度で責めることに終始し、情報共有や議論ができる関係を構築できなかった自分にも不備があることは脳裏にもよぎらない様子。  そもそもなぜ開催地が変更されたのか、変な傘を頭につける暑さ対策では不十分だったのでは?といった視点もない。変更を覆すほどの対策を新たに提案することもなく、ただただIOCや組織委員会がユリコ・ファーストでなかったことを責める。  思えばこれまでもそうだった。希望の党が国政選挙で敗北したのは、党代表が女性であるが故の「鉄の天井」のせい。理念なき合流のドタバタや安全保障に関する「踏み絵」的排除を知る国民は、敗因は女性だからではないのでは?と苦笑した。築地移転が混乱を招いたのは自分以前の都政が腐っていたせい。都民が怒っているのは豊洲が汚いせい。汚染を強調して恐怖心を煽り、遅延させた上に強引に移転した、意味のない混乱や支出を謝罪もしない。  ジェンダーギャップ指数が153か国中121位に下がるなど、女性問題で派手に出遅れている日本において、都トップの女性は当然注目されるし、本来であれば単なる欧米のコピーではない新たな多様性の形を見せつける好機にもなったはずだ。自尊心防衛のための巧みな論点すり替えと見当違いな分析で女性の小賢しさだけを見せつけている場合ではない。  夏にはいよいよ石原慎太郎と森喜朗という2人のおじいちゃんが、高度経済成長期ノスタルジーで呼び込んだやっかいな祭典が開かれ、その直前には任期満了に伴う都知事選もある。世界にとっては開催期間中のトップこそ目立つだろうが、東京にとっては深刻な不景気が予測される五輪後の都市運営の指揮を誰に任せるかこそ最重要なのだ。  現在の東京は、約60年前に急ピッチで築かれ、バブル期に装飾された、良くも悪くも男による男の城である。働く者が多様化し、あらゆる文化的背景を持つ人々が訪れるようになった東京はくしくも今、施設が一気に老朽化している。五輪をおじいちゃんのノスタルジーに終わらせず、都市再編の機会にできるか。トップの責任は大きく、本来的な意味で多様性を実現できるトップを選べるか、有権者やマスコミの責任はさらに大きい。 写真/時事通信社 ※週刊SPA!1月7日発売号より
’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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