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映画監督・中村真夕「本当の愛国者とはどういう人か知りたくて、鈴木邦男さんを撮った」

匿名が当たり前の現在、「直接話し合おう」という鈴木さんの姿勢に新鮮さを感じた

自宅のみやま荘で取材に答える鈴木氏

――長らく住んでいる、東中野・みやま荘の住所、電話番号は著書の奥付にも載せていますよね。匿名性の対極です。 中村:部屋の入口に名刺が貼ってあるので、映画でも住所・電話番号が公開されているます(笑)。個人情報をさらしているのは、何かあったら、話し合おうという覚悟があるんですよね。 ――鈴木さんは柔道三段、合気道三段。理論だけでなく、肉体も武装して、「話し合い」の準備をしている(笑)。 中村:個人情報保護法の時代、いまの社会に逆行しているんですけれどね。しかし、匿名で一方的に自分の意見を主張したり、他者を叩いたりしているのは、ずるいと思う。ただ、私自身、ネット社会に慣れていたので、直接話し合おうという鈴木さんの姿勢に新鮮さを感じて、貴重だと思いました。鈴木さんは「殺すぞ」というような脅迫を受けても、いちいち相手にしていられないと、平気な顔をしています。また、映画でも紹介しましたが、鈴木さんは村井秀夫刺殺事件(95年、当時オウム真理教の幹部であった村井秀夫が、200人を超えるマスコミが集まる衆人環視の中で刺殺された事件)の犯人である徐裕行さんが出所後、元オウム真理教の上祐史浩さんに引き合わせました。しかし、徐さんの本当のターゲットは上祐さんだったので、「万が一のときは自分が身代わりになる」と上祐さんに伝えていたという。 ――かっこいいですよね。 中村:それだけの覚悟があるのは……たくさんの修羅場をくぐり、多くの挫折や失敗も経験してきたからだと思います。器の大きさ、他者へのやさしさも、そこから生まれてきたという。ただ、鈴木さんは笑顔を絶やしませんが、心の底からは笑っていない、目が笑っていないと感じることもあります。 ――笑顔の底の“闇”を考えることで、過激な排外主義、他者へのバッシングを愛国主義とはきちがえた右翼がはびこるいまの日本の問題が見えてくる気もします。 中村:今作のなかで描かれる鈴木邦男さんの姿を、考えるヒントにしていただけたらうれしいです。 ●中村真夕(なかむら・まゆ) ニューヨーク大学大学院で映画を学ぶ。06年、劇映画『ハリヨの夏』(主演:高良健吾、於保佐代子、柄本明、風吹ジュン)で監督デビュー。釜山国際映画祭コンペティション部門に招待される。12年、浜松の日系ブラジル人の若者たちを追ったドキュメンタリー映画『孤独なツバメたち~デカセギの子どもに生まれて~』を監督。15年、福島の原発20キロ圏内にたった一人で残り、動物たちと暮す男性を追ったドキュメンタリー映画『ナオトひとりっきり』を発表。モントリオール世界映画祭のドキュメンタリー映画部門に招待され、全国公開される。最新作、オムニバス映画『プレイルーム』はシネマート新宿で異例の大ヒットとなりアンコール上映され、全国公開される。脚本参加作品としてはエミー賞ノミネート作品『東京裁判』(NHK)29年度芸術祭参加作品がある 取材・文/羽柴重文
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『愛国者に気をつけろ!鈴木邦男』は現在、東京・ポレポレ東中野で公開中 http://kuniosuzuki.com/
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