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ポリティカリーコレクトに残虐なエンタメを生み出したポン・ジュノの妙/鈴木涼美

2月9日(現地時間)にロサンゼルスで開催された第92回アカデミー賞授賞式では、ポン・ジュノ監督の『パラサイト』が、国際長編映画部門、脚本部門、監督部門、そしてアジア映画初となる作品部門の4部門でオスカーを受賞した
ポン・ジュノ

写真/EPA=時事

ドラッグ食べてお経読みながらイイコトしたい/鈴木涼美

 オンナの好きなオトコはレディファーストで大切にしてくれる人(王子様系)と、グイグイ引っ張って別の世界に連れていってくれる人(オラオラ系)とおおまかに二種類いる。オンナの好きなセックスも二種類あって、ピンポイントで触って欲しいところに触れて柔らかく愛してくれるメイクラブ系と、組み敷かれて乱暴に抱かれるファックミーハード系。王子系が必ずしもメイクラブではなく、だから組み合わせは4種類あって、個人的には性格が王子なファックミーハードが最強と思っている。  今年のアカデミー賞でアジア映画初(『ラストエンペラー』は伊中英の合作、『スラムドッグ$ミリオネア』は英映画でどっちも主な台詞は英語)となる作品賞をはじめ、4つのオスカーを手にした『パラサイト 半地下の家族』は、そういう意味でちょっとファックミーな王子っぽい。かつてはたまに英映画(『アラビアのロレンス』とか)や低予算映画(『ムーンライト』とか)が入るくらいで基本的にハリウッド万歳!という姿勢だったアカデミーは、ここ最近会員属性の改革を続けており、今回の受賞がダイバーシティ化の成功を強くアピールしたのは周知のこと。  もう一つ話題を集めているのはポン・ジュノ監督が撮影で労働時間、食事時間、休みの規定の遵守を徹底した点。血の汗垂らさないとメダルは獲れないスポーツ業界における青学・原晋監督の登場みたいな衝撃が、「いい映画撮るために家族に見放されるのも美学」とブラック労働聖域になりがちなエンタメ業界に走った。  ここまで見ると極めてポリティカリーコレクトな印象を受けるが、映画の内容にそういった王子様風なところはむしろ皆無だ。並べて論じられることが多い『万引き家族』にだって、家族とは何かとか一般的な意味でテーマと感じられるものがあって、最終的に悪事が暴かれる側面もある。 『パラサイト』は結構ディープな貧困など社会派な題材を扱うものの、教訓や説教的なところはもちろん皆無でディズニー的な煩いメッセージもない。飽きない展開とプロットでスプラッタっぽくもホラーっぽくもコメディっぽくもなり、潔くエンタテインメント然としているうえに結構残虐。王子系の謳い文句からは美しく逸脱する。  嫌韓ヘイト発言が好きな人が受賞を買収だと言って生き恥をさらしているとか、日本のエンタメ界がせっせと右巻きの討論番組を作っている間に韓国のエンタメ界はさっさと国際基準になってるとか、そんなことはいくらでも言えるけど、私はこの、イメージの落差こそ、私たちが本作のヒットに学ぶことのような気がしている。  社会派なものは真面目くさっていなきゃいけないとか、大衆メディアで万人受けするのは女子アナファッションだとか、破天荒なものは徹夜して殴って怒鳴られてしか作れないとか、クスリやってた人の出演映画は内容関係なくダメとか、表象も文化も不謹慎はダメで不謹慎な人が作るのもダメで色々と一致していなきゃいけないみたいな考えが蔓延するけど、王子系のハードファックを糾弾するのではなく味わってイキまくる気概がなくては、社会なんてきっとつまらない。 写真/EPA=時事 ※週刊SPA!2月18日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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