全国の鉄道の中には、アッという間に終点に着いてしまう距離の短い路線は多い。なかでも起点、または終点の駅がどん詰まりで、別の路線への乗り換えができない路線のことを「
盲腸線」と呼ぶ。
先端が細長く伸びている臓器の盲腸になぞらえて呼ばれるようになったわけだが、国鉄時代は現在の倍以上の盲腸線が存在。現存する路線もその多くがローカル線で、沿線には野山や海など自然が広がり、旅情をかき立ててくれる。
終着駅は教会風の駅舎
最初に紹介するのは、九州・天草諸島(熊本県)の玄関口、三角半島(宇土半島)を走るJR三角線。半島の付け根に位置する宇土駅から終点の三角駅までの25.6kmの路線だが、左右どちらの窓からも海を間近に眺めることができる。なぜなら途中で半島中央部を斜めに突っ切る形で線路が伸びているからだ。
三角駅
終着の三角駅はまるで教会を思わせる造りで、観光特急『A列車で行こう』の運行が始まった2011年に合わせてリニューアル。デザインを担当したのは、超豪華クルーズトレイン『ななつ星in九州』など数々の列車や駅を手がけた工業デザイナーの水戸岡鋭治氏だ。
三角駅構内
コンセプトの「16世紀大航海時代のヨーロッパ文化」「古き良き“あまくさ”」の通り、歴史の息吹を感じるレトロモダンな駅舎になっている。
天草の海と島が一望できる『海のピラミッド』
また、訪れたらぜひ立ち寄りたいのが駅前にある『海のピラミッド』。建物の上からは、天草の島々や海が一望できる絶景スポットになっている。
続いて紹介する鳥取県の若桜鉄道(わかさてつどう)。県などが出資する第三セクターで、郡家駅と若桜駅の19.2キロを結ぶ山間部を走るローカル線だ。もともと国鉄若桜線として1930年に開業し、沿線には当時のまま古い木造駅舎の駅もある。
若桜駅
終着駅の若桜駅も登録有形文化財に指定されており、駅舎は小ぢんまりしているが構内は古さを生かしたハイカラな雰囲気だ。
若桜駅構内
同駅は今年2月に改修工事を終えたばかりで、この監修を担当したのも三角駅と同じ水戸岡氏。若桜鉄道の観光列車のデザインも氏によるもので、今年3月には第3弾となる車両『若桜号』が登場した。
C12蒸気機関車
観光に力を入れている鉄道会社で、若桜駅にはC12蒸気機関車や円筒状の給水タンク、列車を方向転換させる回転台なども保存。見学には入構許可証(300円)が必要だが、博物館ではなく本物の鉄道駅に展示されているのは貴重だ(※C12展示運転ならびに体験運転は、新型コロナ感染防止対策 のため当面中止)。
ご当地アニメの聖地にもなっている駅
そして、次に紹介するのは、福井県のえちぜん鉄道三国芦原線。福井口駅と北陸有数の漁港のである三国港駅を結ぶ、25.2kmの路線だ。
三国港駅
福井市内から平野部を北上する路線で、沿線住民が通勤・通学の足として利用。同時に三国港駅からは芦原温泉や景勝地の東尋坊に向かうバスが出ていることから観光目的で乗車する人も多い。
三国駅駅舎
駅待合室
その三国港駅の開業は1913年(大正2年)と古いが、当初は貨物駅で旅客駅になったのは1927年(昭和2年)。現在、駅ホームにある木造の駅舎や待合室は当時ものではないが、昔にタイムスリップような気分にさせてくれる。
ホームの先には眼鏡橋(右奥)も
ちなみに駅からも見えるが、ホームの奥には眼鏡橋と呼ばれるレンガ積みの陸橋がある。開通に合わせて架けられたもので登録有形文化財に指定。2014年放映の地元舞台のご当地アニメ『グラスリップ』にも登場し、三国港駅と並んで聖地巡礼スポットにもなっていた。