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SNSで繋がる?覚せい剤をやめられない妊婦の証言<薬物裁判556日傍聴記>

呆れて言葉もでないようなやり取り

イラスト/西舘亜矢子

 今度は検察官の被告人質問。こちらも同様に、呆れて言葉もでないようなやり取りが続きます。 検察官「いま妊娠中ということですけど、差し支えなければ妊娠何カ月ですか?」 被告人「4カ月。もう少しで5カ月です」 検察官「いつ気づきましたか?」 被告人「すぐ気づきました。1カ月っていうか生理来ないなって思った、その日。すぐ気づきました。1カ月しないうちに」 検察官「いまは7月なので、3月くらいには気づいていたんですか?」 被告人「はい」 検察官「今回覚せい剤使っていた状況について確認させてください。使い方はあぶりですか? 注射ですか?」 被告人「注射器です」 検察官「あなたが最後に使ったのは平成28年3月上旬ころからと書いてありますが、それはいつですか?」 被告人「3月上旬です」 検察官「1人で使ったんですか? 誰ですか?」 被告人「肱岡(交際相手)です」 検察官「使った覚せい剤は誰の覚せい剤?」 被告人「肱岡です」 検察官「やめられませんか?」 被告人「やめようと思えば全然やめられます」 検察官「これまでやめようと思いながら、結局やめられなかった原因はなんだったんですか?」 被告人「人付き合いです」 検察官「今後やめるためには、自分のこれまでの人付き合いを一新するということですか?」 被告人「肱岡とは話し合いたいと思います。妊娠していることに関して」

なぜ覚せい剤を使う仲間がたくさんいるのか?

検察官「前回、坂田さんもそうですし、今回の逮捕時一緒に覚せい剤を使っていた肱岡さんもそうですけど、あなたとしては何で覚せい剤を使う人たちがいっぱいいるんだと思いますか?」 被告人「自分が使っているから、そういう付き合いが回ってくる。自分が引き寄せている」 検察官「服役すると形式的に絶たれると思うんです。そして出てきた段階では、物理的に覚せい剤をやる仲間って、形式的には周りに誰もいないような状態に、形式的にはなっていると思うんだけど、どういうことがきっかけで、また集まってくるの?」 被告人「フェイスブックとか、携帯でつながってSNSとかで」 検察官「で、あなたとしては今後人間関係を絶つために、どういうことをしたらいいと思いますか?」 被告人「電話帳にも残しておかない。電話帳にあると夜中に薬飲んで、変なふうになって電話しちゃうんで、着信拒否して、電話番号変えたんですよ、最近」 検察官「フェイスブックとかSNSあるじゃないですか? ああいうのでも繋がっていると思うんですが、ああいったアカウントも削除しようとは思いませんか?」 被告人「削除の仕方がわからない」 検察官「わかれば消しますか?」 被告人「フェイスブックですか? 普通の友達とも付き合いがあるから……。みんながみんな悪い奴らじゃなくて、中学校からの友達とかもいるから……」 検察官「名前を言えるかどうかは別としてなんですが、いま話しがでた坂田さん、当時交際していた肱岡さん以外に覚せい剤とつながっている友人はまわりにいますか?」 被告人「いますけど、私は仲悪いです」 検察官「その人たちとも2度と会わないということでいいですか? 例えば、あなたがやめようとしていて、それをサポートしてくれるような団体とか、病院とか、ダルク……」 被告人「肱岡恒明とダルクに行く約束をしました。でも肱岡恒明も更生しようと頑張っているじゃないですか? お腹の子もいるし、できればちゃんと同じ屋根の下でやっていきたいと思っています」 検察官「これまでの服役経験のなかで、何かしらのプログラムを刑務所内で受けたことはありますか?」 被告人「はい」 検察官「それなのに、また覚せい剤に手を出してしまったのはなんですか??」 被告人「外にいたから。刑務所の外にいたから」 検察官「今後早かれ遅かれ社会復帰すると思うんですけど、今後はどうするつもりですか?」 被告人「お腹の子供がいるんで、自分よりも大事にしたいし、この子だけじゃなくて、児童相談所にいる子供を取り返すために頑張りたいと思います」 検察官「お子さんと生活していくために何をしたらいいと思います?」 被告人「今までは自分勝手に生きていきましたけど、普通に生きたいです。肱岡は仕事にちゃんと行って、私は子育てして家事をしてという普通の家庭。肱岡もそういうようなこと言っていたんですよ」 検察官「そういうような状況になれるように頑張っていきたいということなんですか?」 被告人「はい」  ……。本人は反省の弁を述べているつもりなのかもしれませんが、傍目には本質的な問題を棚上げした言い訳を延々と続いている印象しか受けません。夫婦喧嘩がきっかけで児童相談所に子供が引き取られたり、そういった後先を考えない幼稚な内容の争いを聞いていると、覚せい剤に手を出してしまった時点で普通の暮らしは今後できないのかもしれないとも思えてきます。  被告人の付き合う男はみんな覚せい剤使用者で、男が好きというより、男が持っている覚せい剤が好きなのだろうと考える方が自然な発言です。判決は以下。  主文。被告人を懲役2年に処する。未決勾留日数10日間をその刑に算入する。    ***  被告は累犯であり、この実刑判決は当然のように思える。本法廷内で被告が本当に反省していると思っているのは、おそらく誰もいない。覚せい剤はやはり「ダメ、絶対」と痛感する裁判記録だ。 <取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す
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斉藤さんのnoteでは裁判傍聴記の全文を公開中。
note(https://note.com/so1saito/n/n7c2769dfcc68
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