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足立区議の無知な差別発言は、絶望的な自信のなさの裏返し/鈴木涼美

9月25日の足立区議会一般質問で、白石正輝議員が、同性愛が広がれば足立区は滅びるという趣旨の発言をし、非難を浴びている。白石氏は当初「当事者が不快と思っても別に良い」と謝罪を拒否したが、12日に発言を撤回し謝罪をした。
鈴木涼美

写真/時事通信社

仮面の告白?/鈴木涼美

 ゲイ嫌いの厳格な人というとどうしても『アメリカン・ビューティー』の隣家のおじさんが思い出されて、仮面のうちに秘めたる性倒錯を想像してしまうのだが、それはさておき、LGBTQ関係の差別発言には二類型ある。宗教的・思想的な観点から意識して嫌悪や差別感情を表現するものと、無教養・無自覚な発言で差別の意識なく人を傷つけてしまうものだ。  トランプ米大統領のように、一定の支持層に訴えかけるために、おそらく自分の思想とはあまり関係なくあえて差別的な態度をとるものも前者のうちだろうし、ハル・ベリーがトランス男性を「she」と言ったような例は後者に入る。時に殺人に発展するほど攻撃的なのは当然前者なのだけど、日本に限ると後者の始末がとんでもなく悪い。  足立区の年配区議がLGBTQが法律で守られたら「足立区は滅んでしまう」と発言して批判を浴びている。「もしこれが足立区に完全に広がったら」といった言い回しを見ると、コロナウイルスと混同したのかとさえ思えるが、毎日新聞のインタビューでは「私は、LGBTに反対してないと言ってる」「悲しいと思うような人生を選んだんだからしょうがない」などと発言しており、差別的な態度を巻き散らしている以上に無知とアタマの悪さを巻き散らしている。 「私のまわりにはまったくいない」と断言できてしまうあたり、自分の目に見えていない、知らない世界があるであろうという、人類が生き抜くにおいて最も基本的な疑いすらない。きっと、地球が丸い上に回転していることも知らない。  自民党の地方議員などがこの種の発言を強調する時に必ず「全員がこうなったら」と、およそ現実味のない極端なことを論拠とするのは、要するに「全員がこうなることがなければ」何の問題もないからなのだ。  そもそもゲイもレズビアンも禁止されていないので、「なる」自由は別に誰にでもあるわけで、彼の極端な議論に上乗せすると、「人間はみんな同性愛者だが、現状では法に守られたい一心で異性愛者を装い結婚して子供を産んでいる」というトンデモ論になる。そうなってくると、この区議自身に『アメリカン・ビューティー』や、「同性愛を治した」と発言したドゥテルテ比大統領のポテンシャルすら感じる。  人口減は深刻な課題ではあるが、産みたくても産めない人どころか、産みたいし産める人の支援すら疎かな状態で、そんなトンデモな妄想を繰り広げている場合ではない。  そもそも同性婚の反対意見などを聞いていても思うのだけど、選択肢を与えようという議論に、「全員がそうなったら」と反応してしまう人は、無知故の横柄な自信を持っているように見えて、実は絶望的な自信のなさをごまかしているのではないか。  レズビアンカップルが法的に保障されたら、自分の女が自分を選び続けてくれる自信がない、自分の氏を妻に名乗ってほしくても、それを説得した上で自分を選んでもらう自信がない、ゲイに誘われたら自分が家庭を維持できる自信がない、自分は多様性が認められた社会で選ばれるほどの男ではない、という演説を聞いている気分になるし、そもそもゲイに誘われたら「全員がそうなってしまう」という見立ては、ゲイ男性のテクや魅力をさすがに過大評価している気がする。 ※週刊SPA!10月13日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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