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元プロ野球選手の公認会計士。受験回数9回、なぜ諦めなかったのか?

野球も受験も根っこは同じ

現役時代の奥村氏

現役時代の奥村氏 写真提供/月刊タイガース

「まず、勉強方法を見直しました。仕事前と昼休みと仕事が終わってから勉強していたんですが、最初の頃は、仕事が終わってから睡眠時間を削ってどれだけできるかでしたが、とてもじゃないけど身体が持たない。仕事中にもどうにか勉強できないかと考えたんです。だからと言って業務を疎かにして勉強するわけにもいきません。 そこで思いついたのが、頭の中でインスピレーションとして定義を引っ張り出す方法です。会計って会社の中のことに関係あるため、例えばコピーを取りながらこのコピー機は会計上どう処理するのかを考えたり、スーパーに行けばスーパーに関係のある会計理論を頭の中で思い浮かべたりして、目につくものを会計に結びつけて脳内で勉強してました。 それがもの凄く効果的だったんです。仕事以外に何時間勉強できるかが勝負だと思われがちなんですけど、勉強できないと思われている勤務時間中にちょっとでも勉強にあてられたら、トータルで換算したらもの凄い時間になるんです。ボトルネックとされる勉強できない時間をどう有効活用していくかという発想から活路が見出せられた感じです」  ビジュアルに基づいた知識に紐付く勉強方法、つまりテキストに書いてある文言に実際の映像を貼り付けるイメージでやっていくと、勉強するのがだんだんと楽しくなっていったという。9年間のうち最後の2年間は、このような感覚で勉強するうちに楽しさが芽生え、密度の濃い時間を過ごすことができた。 「野球での成長プロセスと受験での成長プロセスを比べても、根っこは同じだとわかりました。野球のスキルを伸ばすのとテストの点数を伸ばすという違いはあれど、やっていることはPDCA(計画、実行、評価、改善)じゃないですけど、間違えたことをなんで間違えたのかを理論的に考えることができ、野球と一緒だなと思えるようになってから勉強が一気に楽しくなってきました」

9年目でようやく合格。現在はアスリートのキャリア支援を行う

 ‘13年、足かけ9年で公認会計士試験に合格することができた。途中、心が折れかけたことは何度もあったが、その度に奥さんを含めた周りの人たちのサポートがあったからこそ合格できた。9年間という不遇の時間があったからこそ今があると奥村は断言する。 「会計の世界というのは、企業の活動の成果を数字に置き換えて、最終的に報告書にまとめて提出していきます。それに基づいて投資家や利害関係者の方がその報告書を見て、会社に対して評価を下していきます。野球も選手の日々の活動の成果、例えば、バッターでいうと何打数何安打で打率何割何分何厘というふうに、その選手を表す数字に置き換えられ、シーズンが終わると成績によって年棒が決まるという貨幣価値を示していくプロセスって同じだと思うんですよね」  会計の世界もスポーツの世界もプロセスが同じと述べる奥村は、アスリートのキャリア支援事業を中心に一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構の代表理事、また株式会社スポカチも創業し代表取締役としても活動している。  アスリートが現役のうちから社会に出る能力を養うことで引退後の人生に不安を抱かず、いろんな分野へと進出できる構造を作っていきたいと考えている。一口に、構造改革と言っても障壁はいくつもある。だからと言って途中で諦めることは決してしない。自身の成功体験がある限り、この理念は未来への架け橋になると信じているからだ。奥村の挑戦はまだ始まったばかりだ。 <取材・文/松永多佳倫>
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て2009年8月より沖縄在住。最新刊は『92歳、広岡達朗の正体』。著書に『確執と信念 スジを通した男たち』(扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。

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