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コロナ禍だからこそ読みたくなる! 『もはや僕は人間じゃない』に込めた破壊と癒し

先が見えないコロナ禍だからこそ今を楽しみたい

3か月連続で新作エッセイをリリースす作家・爪切男

渋谷の町中華・兆楽Tシャツが、すごく似合っている作家・爪切男

 本書は、読み物として多少のアレンジは施されているものの、爪が歩んできた人生を自身の言葉で蘇らせた渾身の一作。ただ記録として書かれているのではなく、そこには時代に抗う熱い思いも込められている。 「僕が思っていることをトリケラさんに代弁してもらっているところもあって、例えば、最近の“言葉狩り”。本書に出てくるオカマさんたちは、自分がオカマと呼ばれることに幸せを感じている人もいたりするんです。関係性によっては言ってもいい場合もあると思うんですが、そういう現場を知らない人が、ただ闇雲に『禁止用語だから』の一点張りもどうかと思うんですよね。当の本人が心を痛めているのなら、全力で謝罪に行きますが…」  何でもかんでも枠にはめ、がんじがらめにしたがるこのご時世、そういう流れをぶち壊し、本来の人間関係を取り戻すことも爪にとっては重要なことなのだ。  また、コロナ禍によって何かと気が滅入る昨今、本書の中で爪がゆるり立ち直っていく姿を追うだけでも、不思議なカタルシス効果を生み出し、気持ちが随分と楽になる。 「先のことを考えても不安になるだけ。今できることを楽しむことのほうが大事ですよね。世間では、苦しみを乗り越えたドラマティックストーリーを好む傾向にありますが、結果を求めすぎるのもつらいので、がんばり過ぎず、楽しいことだけ考えていきたい。そうすれば、なんとなく苦しみを乗り越えられたりしますから。もしも自粛生活がしんどくなってきたら、この本を読んで、『自分よりアホな奴がいる!』と思いっきり笑っていただければ」  濃厚なキャラクターたちが織りなす嘘のような本当の話…爪渾身のエッセイ『もはや僕は人間じゃない』は、目の前の固定概念をぶち壊し、コロナ禍で滅入った世の中をそこはかとなく癒してくれる…ちょっと大袈裟に言ってしまえば“救世主”のような一冊なのだ。一部過激な描写もあるにはあるが、広~い心で享受してほしい。

インタビューを終えて

爪切男新作エッセイ:『もはや僕は人間じゃない』

爪切男新作エッセイ:『もはや僕は人間じゃない』

 こうしてインタビューを書き起こしてみると、(今は自粛中だが)ガールズバーに足繁く通う普段の素行からは考えられない爪の真摯な部分が溢れ出している。実は真面目で硬い人……と言いたいところだが、残念ながらそうではない。  とにかく、際どいマシンガントークでインタビューの冒頭から大爆笑、相変わらずの“ふざけた”ファンキー小説家野郎なのだが、メディアに掲載できない言葉や描写が乱射されるため、カットせざるを得ないのが現状。うーん、実に残念だ。  何か支障のない初出しの面白いエピソードがないものかと音声を聞き直してみたら……あった、ありました!爪の大好物“ツナ缶”の話。コロナ禍、家から出られない爪は、密かにツナ缶と格闘していたというのだが? 「ツナ缶が好きだって言ったら、イベントに来た方が山のように持ってきてくれて。なかなか消費できなかったのですが、コロナ禍を機に全制覇しました! 調理法は至って簡単、大きな皿の上に大量の味付け海苔を花びらのように敷き詰めます。その中心部分に、炊き立ての白米とにツナをぶち込んで、醤油とマヨネーズをドバッと入れて、あとは味付け海苔で包むだけ。名付けてツナフラワー。それをひたすら食べていましたね(笑)」  なんともワイルドでデンジャラスなツナ料理!? 爪の立派な体格とキレ味抜群の発想力は、どうやらマグロパワーが源のようだ。 取材・文/坂田正樹 撮影/後藤 巧
広告制作会社、洋画ビデオ宣伝、CS放送広報誌の編集を経て、フリーライターに。国内外の映画、ドラマを中心に、インタビュー記事、コラム、レビューなどを各メディアに寄稿。2022年4月には、エンタメの「舞台裏」を学ぶライブラーニングサイト「バックヤード・コム」を立ち上げ、現在は編集長として、ライターとして、多忙な日々を送る。(Twitterアカウント::@Backyard_com)
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 3ヶ月連続エッセイ第2弾『働きアリに花束を』(扶桑社)は3月19日に発売され、第3弾『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)は4月26日に発売される。
もはや僕は人間じゃない

爪切男:3か月連続で新作エッセイ第1弾

働きアリに花束を

爪切男が紡ぐ「勤労エッセイ」

クラスメイトの女子、全員好きでした

爪切男が贈るスクールエッセイ
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