更新日:2021年03月30日 11:31
スポーツ

「巨人3連勝」の立役者はなんと「競輪選手」だった!

愛されていたのはファンからだけではなかった

 選手として最後のレースとなった決勝戦で、再び皿屋選手の番手からレースをすることになったが相手が強力だった。皿屋−林に対して近畿地区が4人決勝に進出し話し合いの末結束したのである。野原−南−松岡−鷲田。野原と鷲田は同県だったにも関わらず南が自らの格を主張し鷲田が納得して4番手まで下がった形での結束だった。4人が結束して長くなった近畿ラインと、2人しかいない林の中部ライン。どう見ても近畿勢の優位は揺るがず、人気は近畿勢に集中していた。  しかし、皿屋豊選手は林巨人の引退レースがノーチャンスで終わるなんてことを許さなかった。残り800mと2日目よりも長い距離から一気に近畿4車に襲いかかり主導権を奪うと、単騎の武藤龍生(埼玉)を味方に引き連れて3車で気迫の先行勝負に打って出たのである。  主導権を奪われた近畿の野原は残り一周400mで外から巻き返し上昇、ペースは上がりっぱなしで皿屋選手も苦しいが一歩も引かない。そして、その皿屋選手の気迫に応えるように林選手は近畿ラインの肝である番手の南選手を牽制して後退させる。皿屋選手は残り半周200mで力いっぱいになったが踏むのを諦めず力を出し切ろうとしたため内に遅れながらも残り、前に出た野原選手はペースを落とすことができない。ここでもし皿屋選手がスタミナ切れを起こしたときに一気に後退していたら野原選手に余裕を与えていたところだった。  ファンはレースからしか感情を推し量れないが、皿屋選手の心には最後まで諦めない気持ちと林選手への想いがクロスした結果、力尽きたら一気に後退するところを意地で脚を回し続けたように見える。そして最後の直線、野原選手の後ろに切り替えた林巨人選手が抜け出し優勝、まさに有終の美を飾ったのである。

「愛されること」が伝播する

 開催終了後、気迫の主導権取りを見せた皿屋豊選手はツイッターでこうつぶやいた。
「名古屋F1終了しました! 成績は良くなかったけど、競輪には着以上のものがあると信じてます。 林くん次のステージでもがんばって」  皿屋選手は林選手の1つ年上。歳の近い後輩の第二の人生を祝福するツイートへ、競輪ファンから感動のレースの立役者となった皿屋選手への感謝のリプライが殺到したのである。  これも林選手が初日、2日目に見せたように前を走ってくれた選手のために牽制など丁寧な仕事・チームプレーをし続けてきたからこそ「選手からも愛されていた」ということだった。そして「愛されることの大切さ」は皿屋選手が受け継いだのだ、ということを、このツイートへの反応で垣間見ることができるのだ。だから、皿屋選手の成績は5位だったけれども「誰も良くないなんて思ってない」のである。  競輪はなぜ面白いのか、今回の引退劇で改めて説明できるような気がする。感動のレースが突然やってくる、あなたも一度、競輪を見るだけじゃなくて、知ってほしいと願う筆者であった。
公営競技ライター・Youtuber。近鉄ファンとして全国の遠征観戦費用を稼ぐため、全ての公営競技から勝負レースを絞り込むギャンブラーになる。近鉄球団消滅後、シグナルRightの名前で2010年、全公営競技を解説する生主として話題となり、現在もツイキャスやYoutubeなどで配信活動を継続中。競輪情報サイト「競輪展開予想シート」運営。また、ギャンブラーの視点でプロ野球を数で分析するのが趣味。
Twitter:@signalright
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