洞窟のような寿司屋にたどり着く
さて、もはや身も心も、そして酔い加減も大満足。ただせっかくいい気分の夜。最後にどこかでもう一杯だけやって帰りたい。
そういえば神田駅近くのガード下には、小さな飲み屋が入り組んだ洞窟のようなフロアにひしめくディープなスポットがあった。そこをふらりと探検してみることにしよう。
よくぞ残っていてくれたこの雰囲気
まるで映画のセットのよう
もっともなかの様子がうかがい知れない「次郎長鮨」という店に入ってみることに
洞窟内にさらにのれんがあり、その奥が店内
なんだか異次元に迷い込んだようですらある
圧倒的な味わい!
店内に別のスナックへの入口が
パリ:これまた驚きの店ですね……。同じ洞窟内の別の居酒屋には入ったことあったんですが、ここは謎すぎて入れたことがなくて。ディープさが段違いだ。
清野:都市のエアポケットというか、完全に異世界ですね。酔いも相まって、何処で何をしてるのかだんだんわからなくなってきて、脳がポワポワしてます。
ジョッキまでキンキンの生ビールがうまい
酒ももちろんうまい
寡黙な大将が営む店
そしてやってきた、おまかせでお願いした刺し盛り!
パリ:うわ、刺身、どれもうますぎる……。
清野:とんでもないですね! なんていうかこの店、ずっと気持ちいい……。
パリ:ほんとに現実ですか? 今。清野さんの顔がいつになく多幸感に包まれてるように見えます。
清野:パリッコさんもさっきカメラ片手に隣のスナックと寿司屋ゾーンをスイスイ行き来してて、いつになく楽しそうでしたよ(笑)。もはやこの「穴」から出たくないですね。
パリ:やばい。油断してると取り込まれる(笑)。これらをいただいたら帰りましょう。
清野:ここにずっと身をうずめていたい……。
いつになく幸せそうな清野氏
「つい数ヶ月前まで存在していたこの寿司屋、都市開発によって「洞窟」ごと完全消滅してしまったそうです。時の流れは容赦ない。今、身近に当たり前のように存在している店も、急いでめでとかないと、消えちゃう…!」(清野)
※編集部注:現在は移転し、新店舗にて営業中です
パリ:今回のコース、広く誰にでもおすすめできるわけではないけど、我々的にはかなり大満足の内容でしたね。
牧野:今回初めて同行させてもらいましたが、ふたりの観察力によって解像度がぐっと上がって、ひとりだったら気づかない、お店の方やメニュー、店構えのおもしろさが鮮明になる感じを味わえました。
清野:何も気にせず期待せず、結果的にこういうメに遭えるのが街歩きの理想ですね。流れやバランスも良かったし、100点満点の一夜でした。
牧野:そういえば、あさひになぜか飾られていたZARDのサイン、本当に本物なんだろうか……
あさひに、なぜか飾られていたZARDのサイン
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そして我々一行は現実世界へと戻ってきた。あれからずいぶん時間が経った原稿執筆時の今、そして、コロナウイルスの影響が残る現在、なんだか本当にあの夜体験したことが幻だったとしか思えず、あらためて、自由に街を探検する楽しみを謳歌できる日がくるのが待ち遠しいのだった。
<TEXT/パリッコ イラスト/清野とおる>
1978年東京生まれ。酒場ライター。著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。ライター・スズキナオとのユニット「酒の穴」としても活動中。X(旧ツイッター):
@paricco