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貸会議室のTKPはコロナ危機をどう乗り越えたか。社長を直撃

 全国でフレキシブルオフィス(貸会議室、貸オフィス)を提供しているTKPはコロナの影響によりリアルで行われるセミナーや研修の機会が減ったことでダメージを受けているイメージをお持ちの方も多いでしょう。しかし、TKPは今まで、リーマンショック・東日本大震災の時期にも黒字を確保し、景気悪化という危機に直面するたびに業績を加速度的に拡大させてきました。  今回のコロナ危機でも足元では業績が回復しており、むしろ、財務体質は筋肉質に変貌を遂げています。過去の経験を経て、今回のコロナで、どんな対応を成し得たのか。また、アフターコロナにおける、TKPの未来像はどんなものなのか。河野貴輝社長が全貌を初めて語ります。

証券ディーラーを経て、証券・銀行を立ち上げ、TKP創業へ

馬渕:河野社長は伊藤忠商事での証券ディーラー、その後、日本オンライン証券(現:auカブコム証券)、イーバンク銀行(現:楽天銀行)の立ち上げを経て、2005年にTKPを創業しました。金融業界から貸会議室の起業へ。異色の経歴です。
TKP 河野貴輝

TKP 河野貴輝社長 

河野:もともと株が趣味だったので、伊藤忠商事の為替証券部でディーラーの仕事を選びました。その後、auカブコム証券、楽天銀行の立ち上げに携わったのがベンチャーとの出会いです。 馬渕:金融×IT業界から、なぜ貸会議室だったのでしょうか。 河野:リアルに即したビジネスをやりたかった。当時、世の中はITバブルの真っただ中。そんな時代を横目に、オーナーとして実体のあるビジネスで稼ぐことが出来る会社を運営していきたいと強く思いました。 馬渕:結果、実体に基づいた稼げる会社を、みごとに成し遂げましたね。 河野:TKPの幕明けは「もったいないものをお金に変えていこう」という発想です。例えば、取り壊しが決まっているビルや立ち退きして誰も使っていないビルの空間がもったいない。そこを、商品化してスペース貸しのサービスを始めました。BtoBの空間のシェアリングエコノミーを16年前に立ち上げたのがTKPです。

「キャッシュ・イズ・キング」危機を乗り越えるたびに拡大が加速する

馬渕:リーマンショックと東日本大震災の時でも黒字を確保しています。過去の2度の危機をどう、乗り越えたのでしょうか。 河野:リーマンショック当時、1か月で約1億の赤字となり上場申請を取り下げた経緯があります。当時、たまたま銀行からデッド(お金を借り入れること)で10億円の資金調達をしていたので、運転資金はなんとかなりました。その時以来、私の格言は「キャッシュを持っておけ」です。 馬渕:「キャッシュ」があれば倒産しない。他にも試行錯誤があったそうですね。
馬渕磨理子

馬渕磨理子

河野:景気が悪くなると、今までのお客様がいなくなります。リーマンショック前のお客様は製造業や輸出企業でした。リーマンショック後は円高になり、輸出企業には大打撃です。新入社員研修を予定した企業も全部ストップ。軒並みキャンセルです。 馬渕:泣き寝入りの状態に。 河野:そこで、ターゲットとするお客様を変えようと考えました。不況の中でも、空いているスペースを使う人はいます。当時は、内需の衣料品や外食産業の企業が使ってくれました。 馬渕:輸出企業から、デフレ時代に強い内需企業にお客さんが変わったわけですね。 河野:私が「不動産仕入れ部長」として、オーナーに家賃を5割から4割下げてもらうように直接交渉をしました。次は、「営業部長」を兼任して時間貸しの料金を3割下げて会議室を必要としているお客様を探しました。 馬渕:仕入れを安くし、できるだけ利幅は伸ばす努力ですね。2011年の3月に震災が起きて、そこから業績の推移が一時曲線から二次曲線的に急拡大しています。 河野:震災までは、単なる貸会議室のサブリースでした。震災でホテルやイベントホールが使われなくなりました。そのタイミングで、TKPは厨房を手に入れ料理人を雇い、貸会議室に料理をケータリングしていくビジネスを付け加えることに成功しました。単なる研修会場からパーティー会場の需要も取りこめるようになり、客単価を上げた事で業績が急拡大しました。 馬渕:二次曲線的に業績が拡大するには、他にも要因がありそうです。 河野:2016年からアパホテルのFCや、リゾートホテルをはじめたことで、宿泊の売上も上がっていきました。さらに、2019年4月にはリージャスを買収し、M&A後にリージャスの売上高も加わりました。売上高543億円まで積み上げていて、昨年2月までは絶好調でした。このまま売上高1000億円までいく予定だったんですけどね。 馬渕:2度の危機後の対応によって、経営にレバレッジが効いているのがわかります。
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コロナ対応で何をしたのか
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経済アナリスト/一般社団法人 日本金融経済研究所・代表理事。(株)フィスコのシニアアナリストとして日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでベンチャー業界のアナリスト業務を担う。著書『5万円からでも始められる 黒字転換2倍株で勝つ投資術』Twitter@marikomabuchi

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