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「本質的に不健全」でしかない三度目の緊急事態宣言決定

大阪、兵庫、京都、東京の4都府県を対象に、4月25日から5月11日までの緊急事態宣言が決定した。飲食店に対する20時までの時短営業、酒類販売の自粛要請、大型商業施設への休業要請に加え、東京都は20時以降の街灯以外の消灯徹底を要請し、疑問の声が挙がっている
鈴木涼美

東京・歌舞伎町で23日夜、飲食店などを見回る警視庁の警察官たち 写真/時事通信社

時代はあなたに委ねてる

 ツルスベ肌が自慢だった10代20代が嘘だったかのように、30歳を過ぎて肌トラブルが多く、赤みや吹き出物が治らなくなって、しばらくあらゆるピーリングやら評判の化粧品やら試した揚げ句、近所の割と普通の皮膚科に行ったら、「些細な菌が顔中に散らばったり、肌に細かい傷ができる可能性もあるから一回何もしないでみて」と言われ、美肌を生き返らせるためと思って肌を触りまくっていたのに、今度は美肌を生き返らせるために極力肌を触らない努力をすることになった。  もちろん劇的に美肌が蘇るなんてことはなく、以後も肌トラブルと共存してはいるが、どちらかといえば後者の方が肌をやや元気にした。  マンボウとかいう措置が何だったのかよくわからないまま、東京などに三度目の緊急事態宣言が発令された。  すっかり麻痺しちゃったなんて声も聞こえてくるし、私自身もどうも緊急事態に慣れてしまったので、去年の今頃を思い出せばかつての緊張感を取り戻せるかも?と思って昨年の4月から5月初めにかけて自分が書いたこの連載記事を読み返してみた。  4月発売第一回が都知事に名指しされた「夜の街」の話、第二回がステイホーム中のDVの話、第三回が緊急事態宣言中にセクキャバに行った議員の話、第四回が10万円一律給付の支給手続きの話、5月発売第一回は首相が布マスク2枚の次は「絆の力」とか言い出した話。全体としては布マスクや絆やセクキャバに夢中な政治家たちには、夜の街やDVや世帯主一律給付で困る家庭についての想像力がないという話だった。  それでも、昨年の今頃はアラートがそれなりに有効で、街が閑散としていたのは、聞き馴染みのないウイルスと各国で伸び続ける死者のグラフ、人気コメディアンの死などによって恐怖と危機感を持った市民が、明日を生き延びるためと思って家にこもったからだ。  緊急事態宣言が明け、今度は人は経済的苦境やDV家庭を抜け出し、明日を生き延びるために外へ出た。もちろん感染状況が劇的に改善されず、恐怖だってゼロになったわけでなくとも、そちらの方に生き延びられる希望があると感じる人が増えたから、二度目の緊急事態宣言は一度目ほどのインパクトがなかった。  GoToナントカと命令形で述べたと思えば再度の宣言、感動しろと言わんばかりに聖火を灯したと思えばまた宣言で、市民は「喜べ、悲しめ、安心しろ、安心するな」と矢継ぎ早に指令を受けている気分になる。  疲弊する飲食店や文化施設の救済と感染防止とのバランスが、そう簡単に答えの出るものではないのは多くの大衆も理解するところではある。それにしても、去年の今頃問題視されていたような事柄のいくつかにでも、政府がなかった想像力を獲得しただろうか。映画館などにまで休業を求めるのを見ると、むしろ人の行動を想像してみること自体、放棄したようにすら思える。  強いて言えば、先般はじまった事業者向け給付金の「対象外」とされた性風俗業者の裁判で国側が「本質的に不健全」で「一般の道徳観念にも反する」エロ産業の中で生きる男女は救いたくない、という価値判断を主張したくらいで、引き続きDVに悩む家庭のGWも、経済的に追い詰められる者も政府の想像力の外側で思い悩む。  市民の課題はコロナや肌トラブルより何より、想像力のないお国とどう共存できるか模索することなのかもしれない。 ※週刊SPA!4月27日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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