キャラと得意分野を知ってもらうことが大切
――では、ヒットメーカーである佐久間さんが、企画を立てるうえで大切にしていることはなんでしょう?
佐久間:ひとつはマネタイズです。「おもしろいから懸けてみよう」というスタンスは、よほどの余裕がないと難しい。テレビ東京では、マネタイズしないと番組が終わるという危機感が常にありました。尖った表現をしたいなら、DVDを売るとか会社を納得させる儲けを生む必要がある。
例えば『ゴッドタン』の場合はDVD化だけではなく、途中からDVD販売をローソンの専売にして仲介コストをなくし、テレビ東京とローソンの両方にメリットがあるスキームを取り入れました。
――そうしたアプローチは、ディレクター時代からですか?
佐久間:僕は戦略的にディレクターとプロデューサーの一人二役をやっていました。番組を続ける算段をつけるプロデューサー、おもしろい企画を考えて実行するディレクター、この両方を同時にコントロールしないと、テレビ東京では番組を続けられないと思ったんですね。営業やプレゼンを嫌がるクリエイターもいますが、僕は営業もやるし、スポンサーへのプレゼンも自分でやる。スポンサーを摑まないと一生新しいことができない、だったら自分で説明したほうが早い、という考えです。
でも、もともとそういうビジネスや数字が得意だったわけじゃないんです。世の中にはマーケティングや方法論だけで当たる企画を生む天才もいますが、僕の場合、自分がそれをやり続けたら吐いちゃう。でも、「やりたいこと」と「評価されること」は別ということもわかる。だから、両者をできるだけ近づけるにはどうしたらいいかと考えて、その結果、一番精神的にラクな方法として一人二役にたどり着いたんです。
血の一滴でも自分を入れないと、どこかでサボって、何も残らない
――両者を近づける秘訣は?
佐久間:自分が本当におもしろいと思っていることを必ず企画に混ぜることです。血の一滴でも入っていないと、嫌なことや面倒なことがあると、すぐにサボっちゃう(笑)。そして、苦手な分野は得意な人間とチームを組んで任せる。人間、30歳を超えてから苦手を克服することなんて、そうそうできません。だったら、得意な分野に専念できる環境を整えたほうが、絶対に仕事を楽しめます。
――番組だけでなく佐久間さん個人のファンも増えていますが、裏方である佐久間さんが表に出ることを決断された理由はなんでしょう。
佐久間:今の時代にモノをつくるなら、名前を出して、語って、自分の芸風をわかってもらったほうがいい。現にラジオを始めてから、僕がつくっているバラエティ番組のネット配信の再生数が1.5倍に増えました。これはテレビ局員に限らず、どんな会社員でも同じだと思います。自分の得意分野とやりたいことを明示しておくと、おもしろい仕事に触れる機会は格段に上がります。
――どうやって、社内で自分のキャラをアピールしたんですか?
佐久間:上司と飲んだりするのが得意なタイプじゃなかったので、とにかく企画書を出し続けることで得意分野を伝えようとしました。企画自体は全然通りませんでしたが、千本ノックのおかげで、「カルチャーに一番詳しいのは佐久間だ」と社内で認知されるようになった。短期的には無駄な努力に見えることも、長期的にはまったく無駄ではないんです。
――ただ、そのポジションを守り抜くには膨大なインプットが必要だと思いますが……。
佐久間:僕は仕事とプライベートのスケジュールを分けておらず、観たい舞台や映画の時間も仕事に組み込んでしまいます。そうしないと、どんどん生活が仕事に侵食されてしまう。例えば、毎晩深夜0時から一日1作は映画を観るようにしていて、事前にGoogleカレンダーに2か月分ぐらいを書き込んでいます。
食事や筋トレと一緒で、インプットがないと新しいものをつくろう、新しい企画に携わろうとしたとき、ストレスで潰れてしまう。インプットがあるからこそ、45歳になってもやりたいことがある状態を保てているんだと思います。
――独立し、クリエイターとしてのプレッシャーはありますか?
佐久間:若い頃は、「10万人に1人の天才か、もしくはその自信がある人じゃないとクリエイターになっちゃダメなのかな」と思っていた時期もありました。でも、40代になって「あなたのつくった番組を見て、人生が変わった」という手紙をたくさんいただくようになったんです。
「死のうと思っていたけど、『ゴッドタン』を見て笑って、やめました」とか。歴史に残る作品をつくれるクリエイターじゃないけれど、僕のクリエイティブを楽しんでくれる人がいるなら、続ける意味はある。今は「好き」「やりたい」という気持ちがあれば、別に天才じゃなくてもいい仕事はできると、むしろ気が楽になっています(笑)。