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感染者数過去最多。我々の自宅は病床どころか棺桶だ

新型コロナウイルスの感染者数が、連日過去最多を更新。緊急事態宣言の対象地域に埼玉、千葉、神奈川、大阪が追加され、北海道、石川、兵庫、京都、福岡にはまん延防止等重点措置が適用された。五輪開催が感染拡大の要因の一つになっているという指摘について、菅首相は「人流は減っている」とあくまで否定した
東京五輪

’64年東京五輪開会式 写真/時事通信社

明日がないかもしれないさ/鈴木涼美

 ギャルい格好でもロックな格好でもイケすかない赤文字系の格好でも使えて、何かちょっと世間に斜に構えた偉そうな雰囲気が出るので長く愛用しているCHANELのマトラッセが、コロナ禍でも強気な値上げでついに定価80万~90万円台になったらしい。  私が買ったときには20万円台で、ちょっとキャバクラでバイトすれば学生にも買えるものだったけど、今やAVデビューして最初の一本の平均的なギャラでも買えるか買えないかの超高級品である。  海外に行くたびに他国の観光客のリッチさに驚くし、長年東京でバカ高い家賃を払っていても現在のアジア諸国の家賃を見て目ん玉飛び出るし、本格的に持たざる側になったなと実感することは日常に転がっている。  他の国に住む人が当たり前に与えられるものを、十分に手に入れられないことは増えるだろうが、そう悲観することばかりではない。日本がリッチだったのなんてほんの20、30年の幻であって、もともと世界地図の端っこの辺境の地では、清貧みたいな思想は結構愛される。  バブルの残り香を嗅いだ世代はアジアの田舎にわざわざお金をかけて出かけていって、素朴な暮らしに「癒やされるわぁ」なんて言ったり、学校のバザーでフィリピンへの募金など集めて「いいことしたわぁ」なんて思ったりしていたわけで、そういうことはわざわざ海を越えた場所ではなくとも隣近所で済ませられるようになる。  問題は、かつて訪れた辺境のような慎ましさや思いやりや素朴さと大自然の恵みを、すっかり失ってから再び辺境に戻らなくてはいけないことだろうけど。  都心部を中心に新規感染者数が最高値を更新し続けている。友人といるときに、1都3県に再び緊急事態宣言の方針というニュースが流れてきたが、「ええっと結局今ってどこが宣言出てるんだっけ?」「全国で1万超えたけど去年の緊急事態中ってどれくらいだったっけ?」と度重なる宣言や自粛に混乱を来しているようだった。  五輪が危機感低下に一役買った側面は多分ある。反対派のデモで感染者が出た可能性もなくはない。世界各国でデルタ株なるものが急拡大する様相を見ると、もしかしたら五輪がなくても感染者数は一定度急増したかもしれない。  ただお金を湯水のように食う五輪開催は、各国のように一旦ワクチンの効果を信じて実験的にでも経済を再開する段階にない、持たざる国の振る舞いではなかった。ワクチン待ち・自粛・飲食店への締め付けなど、鞭、鞭、鞭で飴のない政策の中、ずるずると申し訳程度の体温測定と除菌スプレーを繰り返して街に出ている。  本来、政府や都は五輪の金メダルラッシュを極上の飴にしたかったのだろう。しかし1964に戻ったのは欧米の生活いいなぁ進んでる国は羨ましいなぁという思いだけで、開会式に涙するような素朴な感覚ではない。  ほぼ同時に、雇用保険料値上げのニュースも飛び込み、貧しき私たちの手取りのお金はどうやらまた下がるようだ。  都知事は医療機関の逼迫した状況について聞かれ、一人暮らしの人は「自宅を病床のような形でやっていただく」なんて発言したらしいが、コロナによる打撃に五輪後の不景気が重なり、いつの間にか自宅が病床ではなく棺桶になっている可能性だってある。  藁葺きの家で貧しいけど清い大家族に看取られるならまだしも、好景気時にボンボン建てられた狭小住宅でそれぞれが死んでいくのは、持たざる側としてもあまりに悲惨だ。 ※週刊SPA!8月3日発売号より’83年、東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。専攻は社会学。キャバクラ勤務、AV出演、日本経済新聞社記者などを経て文筆業へ。恋愛やセックスにまつわるエッセイから時事批評まで幅広く執筆。著書に『「AV女優」の社会学』(青土社)、『おじさんメモリアル』(扶桑社)など。最新刊『可愛くってずるくっていじわるな妹になりたい』(発行・東京ニュース通信社、発売・講談社)が発売中

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